ITIコラム

2017年10月26日

 

中国はどこへ行く
~共産党19次全国代表大会での習近平総書記の報告を読み説く~

江原 規由
(一財)国際貿易投資研究所
研究主幹

 

10月18日、日本のニュース報道のほとんどで、中国共産党第19次全国代表大会(以下、『党19大会』)の開幕式での習近平総書記の『報告』がトップニュースとなった。22日の衆議院議員総選挙を間近に控えているにもかかわらず、メディアが同『報告』を大きく取り上げたのは、日本の中国に対する関心の高さを雄弁に物語っていよう。同じことが、世界についてもあてはまるのではないか。例えば、大会現場で報道する中国大陸部外の報道記者が過去最多の1818人に達したこと、現地報道記者に配布する『党19大会報告』が、なんと、計12ヵ国語で用意されていたことなどが指摘できる。党の業績を鼓舞することを第一義とする5年に1度の党大会で、今回ほど世界を意識した大会はなかったのではないだろうか。

「2つの百年の夢」と「2つの15年」

さて、3時間半に及んだ3万2000余字という膨大な『報告』は、「礼記」の“不忘初心,方得始终”(初心を忘れず努力すればいい結果が得られる)に始まり、“大道之行,天下為公”(大道は全ての人々のためにある)の一節で結ばれている。古代の知恵を現代に生かすという中国の歴史を重んじる姿勢が認められる。

その『報告』で最も注目したいのは、中国の発展条件を2段階(2つの15年)に設定したところであろう。2段階とは、2020年までに実現される全面的小康社会(ゆとりある社会)を基盤として、

①2020年から2035年にかけて、社会主義現代化を基本的に実現する
(経済力と科学技術力を大幅向上させ、新型国家の最前列に躍進することなど)
②2035年から2050年にかけて、社会主義現代化強国を建設する
(国のガバナンスシステムを現代化し総合国力と国際影響力で世界をリードすることなど)

この発展条件は、「2つの100年の夢」実現(1921年の中国共産党の誕生から100年、1949年の中華人民共和国の建国から100年を経て中等先進国の水準に達すること)の努力目標の実現期と重なるが、この中国の夢は、中国だけの夢ではなくなっているのではないだろうか。2035年までには、中国は世界最大の経済規模を有しているであろう。また、中国が自称する、“中国は世界最大の発展途上国の地位”にとどまっているとは限らない。中国が、新たなグローバルガバナンスをどう構築してゆこうとしているのか、世界の関心がさらに高まってくるのではないだろうか。

人類運命共同体は党大会での『習報告』における重要なキーワード

過去5年間、世界における中国のプレゼンスは大きく向上した。今や、世界経済の成長率に対する寄与率は30%以上(IMF試算での2013年~2016年平均寄与率:31.6%)と、米国、ユーロ圏、日本の寄与率の合計を超えており、世界で最も貢献している。さらに、中国は、世界第1位の生産大国、貿易大国、観光大国であり、目下、世界第2位の対外投資国となっている。明らかに、“中国から世界への時代”が到来している。こうした中国が果たした成果と経験が内外で還元されることを、世界はますます期待しつつある。この点、『報告』で人類運命共同体の構築を推進していくとしている点は、まさに、そうした時代の潮流、世界の要請を睨んだ問題提起といえる。今日、人類運命共同体の構築を公言できる国は中国をおいてほかにはないといっても過言ではあるまい。さらに、都市化の進展、貧困層の撲滅、民生向上、人材交流など、『報告』で言及された数々の中国の経験は、今後、発展途上国を中心に世界各地で実践されていくとみられる。

一帯一路は習報告の縮図

中国と世界との関係をみる上で、目下、一帯一路ほど注目されている事業はないであろう。『報告』では、4ヵ所で言及されている。一帯一路は、提唱以来4年になるが、参加・支持する国は100余ヵ国と、すでに世界的認知を得ている。その柱は5通、すなわち、政策溝通、設施聯通、貿易畅通、资金融通、民心相通(政策協調、インフラ整備、円滑・間断なき貿易・投資交流、資金の融通、人材・文化交流の強化)である。5通は、グローバルガバナンスの要件ともとれよう。また、その原則は『3共』、すなわち、共商・共建・共享(共に話し合い、共につくり、共に分かち合う)である。こちらは、人類運命共同体の建設のための智慧といえる。国家の繁栄と人民の幸福、そして、世界的規模でウインウインを実現するための「中国方策」と「中国智慧」が一帯一路に込められているとみられよう。『報告』では、一帯一路を対中・対外経済交流の重点とし、その推進で国際協力のプラットフォームを打ち立て、共同発展のエネルギーを増やすとしている。中国が目指す合理的で公平なグローバリズムの改革、そして、人類運命共同体の建設に向けた中国のゆるぎない姿勢が認められる。一帯一路は、新たなグローバリズムを創造する、可能性を秘めた「世紀の大事業」といえよう。

新たな時代に入った中国の特色ある社会主義

『報告』を一文で括るとすれば、“新たな時代に入った中国の特色ある社会主義”ということになるのではないか。『党19大会』で、建国の父、毛沢東、改革開放の親、鄧小平と並ぶ形で、自らの名前を冠した「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」が党の「行動指針」に盛り込まれた。これにより、習近平総書記は理論面でも強い権威を得たことになる。この「新時代」には、「2つの100年の夢」の実現を超えるさらに大きな努力目標があるようにみられる。この点、習総書記が『報告』の初めのほうで言及した次の部分に注目してみたい。

“中華民族は、5000年の歴史を有し、輝かしい中華文明を創造し、人類に卓越した貢献をし、世界の偉大な民族となった。アヘン戦争後、中国は内憂外患の暗黒の時代に陥り、止むことのない戦禍を被り、山河は荒れ果て、人は塗炭の苦しみにあえいだ。~中略~ 中華民族の偉大なる復興は、近世以来、中華民族の最も偉大なる夢である。中国共産党が成立し、共産主義の実現を党の最高理想と最終目標とし・・・・・”

ここでアヘン戦争に言及されているが、中国は英国とのアヘン戦争(1840年~42年)を契機に、いろいろな意味で世界の後塵を拝することになった。ところで、このアヘン戦争は、第1次産業革命(1760年~1830年とするケースが少なくない)の波が過ぎた直後に発生している。中国は、この産業革命の波に乗り遅れた、いや、乗る必要がなかったのではないか。産業革命の国際化の波紋は、偉大★★★なる「中華思想」の扉を超えることはなく、当時(清国)の経済・産業・日常が産業革命の波に洗われることもなかった。このことが、長い間、中国の後進性を引きずってきたのではないだろうか。今、中国は、ことあるごとに人類運命共同体の建設を標榜し、公平で合理的なグローバルガバナンスの改革を提起し、世界でリーダーシップを発揮しようとしている。さらに、今の第4次産業革命(IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボットに代表される技術革新など)の旗手にならんとする姿勢をうかがわせている。世界における中国の存在感、影響力が今日ほど高まったことはなく、そのことで、中国は、現在、「中華」以上に「国際」を強く意識しているに違いない。『報告』における「人類運命共同体」建設への言及は、アヘン戦争を起点とする中国200年の夢となっているのであろう。

今後中国は、グローバルガバナンスの改革や構築に積極的に参画するに違いない。『報告』の行間からそのことが読み取れる。

人類運命共同体の建設、グロ-バルガバナンスの改革を提起する中国に、警戒感を示す国は少なくないであろう。そんな風潮に対し、習主席は2014年、中国とフランスの国交樹立50周年の記念大会の式辞で、「ナポレオン(1769年-1821年)は、中国は眠れる獅子で、この眠れる獅子が目を覚ませば、世界を震撼させると語った。中国という獅子は目を覚ましたが、これは平和で親しみやすい、文明的な獅子だ」と力強く語ったとされる。

『党19大』での習総書記の『報告』は、現下のグローバルガバナンスのあり方を問い、そのあるべき方向を探る参考書とする見方もできるのではないだろうか。