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コラム

2014/08/21 No.22ミャンマー農村部の生活実態とBOPビジネスの可能性(3)農家が直面している問題(注1)

大木博巳
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

1.ミャンマーの農村部の生活実態(第1回)

2.BOPビジネスの可能性(第2回)

3.農家の課題と農業に係わるBOPビジネス
    農家が直面している問題(今回)
     ヘーホーの農業
     ミンコン村の農業
     農家が直面している問題

4.農業に係わるBOPビジネス(最終回) 

ヘーホー村の15の集落を統括しているグループ長は、39歳と大変若い。技術系の高等専門学校を卒業し、ヘーホー村では農業とガソリンスタンドを経営している。ヘーホー村では、これまでは長老が村を取り仕切ってきたようであるが、政府が数年前に若い世代に交代させたということであった。これも大きな変化といえよう。

グループ長は、村の生活の底上げをしたい、昔ながらの農業のやり方を変えたい等の抱負を語っていた。2011年に農業栽培試験場を村に開設して、そこでジャガイモ農家に適切な栽培方法を教えるなど農業技術指導に取り組んでいる。研修に来れば、食事とボールペンを提供するなどあれやこれやと研修への勧誘をしているが、集まる農民は少ない。農業省からも技術指導として、専門家を派遣している。

グループ長によれば、ヘーホー村の農家は、近代的な農業知識が不足している。例えば適切な農薬の使い方をしていない。量や価格のみで農薬を使っている。品質が悪い肥料を買わされるなど等多くの問題を抱えている。我々をヘーホー村に迎え入れたのは、実情を日本に紹介し、日本の近代的な農業技術・知識が欲しいという気持ちからであった。

1.ミャンマーの地形

ミャンマーは、国土の大半が熱帯性気候に属し、暑季、雨季、乾季の3つの季節がある。暑季は2月末から5月中旬まで、雨季は5月中旬から10月中旬まで、乾季は10月中旬から2月末まである。また、ミャンマーの地形は山岳に富み、北から東部、西部へと山脈が広がる。そして高地は北から南へと延び、中央部には大きな平原と峡谷がある。この地形は、東部高地、西部山岳地帯、中央平原、及び南部多湿地域に類型されている。

年間の降雨量は中央乾燥地が700~1000mm、デルタ地帯が2000~2500mm。中部乾燥地域や北部・高原地域のシャン州は、ゴマなどの油糧作物や豆類といった畑作物が主流となっており、南部多湿地域では、稲作が中心である。

2.ヘーホー村の農業

ヘーホー村は、高原地域のシャン州に属する。主な農作物はジャガイモ、とうもろこし、タマネギ、そら豆などである。特に、ジャガイモの産地として、ミャンマー全土で知られている。米は基本的には自家消費のために生産している。

ヘーホー村の大半の農民は、等分に区画された1~5エーカーの水田と畑を所有している。農地は自宅から徒歩30~60分の距離にある。

水田には雨季に米、乾季はじゃがいも、畑は雨季にとうもろこし、乾季は豆を栽培する。米の栽培は、専ら自家消費のためである。自家消費するコメが十分に自分の水田で調達できない場合は、雨季に稲作用の農地を借りる。

農地の賃借料は1エーカーあたりの賃料(地代)は、稲作で8万チャット程度、ジャガイモ生産の農地では、25万チャットである。

ヘーホー村の農家の現金収入源はジャガイモである。面談した大農の場合、ジャガイモ生産で得られる収入(利益)は、収穫がいいときに邦貨にして400万チャット(約40万円)、良くないと150万チャット程度。2012年は、不作でジャガイモ生産の損益は赤字であった。

ジャガイモ生産は、平均してエーカーあたりの投入費用が150 万チャット、エーカーあたり1,200 kg のタネイモを植え付ける。そして、エーカーあたりの収量は5,100~1万1,220 kg 。そこから得られる収入は、80万~350万チャットとなる。

農家にとってジャガイモ生産は賭け的な要素がある。天候に恵まれ、害虫による被害がなければ、大きな利益が得られる。しかし、肥料等の投入費用が多ければ、赤字になる場合もある。さらに、肥料の失敗・天候不順・相場の下落で大きく失敗することがある。失敗したときの赤字額も大きい。

ヘーホー村の耕作カレンダー

ジャガイモ
12月末:圃場の準備(鋤き起こし、柴刈り、草取り)
2月:圃場に種イモを植え付け、20日目に草取りをする。農薬や液剤の散布、施肥を行い、栽培する。
1月~2月:雑草処理、農薬散布(15日に1回程度散布)
3月中旬:農薬を散布し、灌漑する。
4月:ジャガイモの収穫。
4月中旬~5月中旬:休耕 


6月初旬:牛を使って田起こし、しろかきを行い、田植えの準備をする。その後、種もみをまく。
6月末:苗代から苗を抜き、水田に植える。施肥、農薬散布を行う。
9月:稲刈り(3ヶ月後)、天日干し、脱穀、もみすりを行う。自家消費用に貯蔵する。種植え・田植え、収穫時に農業労働者を雇っている

レンズ豆
10月中旬:圃場を準備し(鋤き起こし)、その後、種まきを行う。
11月:レンズ豆の種をまく。
11月中旬:草取り、農薬散布を行う。
1月末、2月初旬:レンズ豆の花が咲き、実をつける。
3月末:レンズ豆を収穫し、脱穀して販売する。
ヘーホー村での聞き取りを基に作成

3.ミンクン村の農業

ミンクン村で栽培されている作物は、水稲、ゴマ、落花生、フジマメ、キマメ、ヒヨコマメ、リョクトウ、ササゲおよび飼料用作物である。これらのうち、水稲とゴマが主要な換金作物である。ここでは、ゴマについてみてみると次のようになる。

一般に栽培されているゴマには3種類ある。a)75~80日の早生種、b)90日の中生種およびc)100日の晩生種がある。早生種および中生種には、a)赤ゴマとb)白ゴマの2種類がある。晩生種は「黒ゴマ」1種類のみである。大半の農家は三毛作を行っており、栽培期間を短くする必要があるため、短期間で収穫できる白ゴマと赤ゴマだけを栽培している。

収穫されたゴマは、乾燥してから脱穀される。生ゴマは直接、町の取引業者に売られる。農家と業者との個人的関係から、同じ業者に販売するのが通例である。こうした業者はミンクン村出身であることから、正確な計量により、正当な価格で買い取る。聞き取り調査した農家すべてがマグウェの同じ業者にゴマを売っている。

ゴマの価格は不安定で、2012年は白ゴマ1バスケット(54ポンド)当り3万2,000チャットであったが、2013年は4万2,000チャットへと高騰した。ゴマ価格は輸出市場に左右される。

プレ・モンスーン期ゴマ(赤ゴマ)とモンスーン期ゴマ(白)の作付け過程は同じである。モンスーン期ゴマにはより多くの施肥が必要となるが、これは降雨のために肥料の濃度が時間の経過とともに薄まっていくからである。

モンスーン期のゴマ栽培の平均生産費は1エーカー当り24万5,040チャットで、平均10バスケット(1バスケット=54ポンド)の収量が見込める。4カ月間にわたるモンスーン期ゴマ(白ゴマ)の生産からの利益率は54%になる。

  モンスーン期ゴマ(白ゴマ)の利益率

出所: ジェトロ「ミャンマー農村地域における農民生活実態調査マグウェ郡ミンクン村の事例」(2013年11月)

ミンコン村の農家が直面している問題としては、

  • 農家は質の高い種子を使用しておらず、毎年、使用する種子が異なる。農家は質の高い種子にアクセスする必要があり、作付に同じ種類を使用するという知識を持つ必要がある。
  • ゴマ価格の不安定さも農家の懸念である。ゴマ価格は輸出市場に左右される。市場価格が変動する。農家は農産物の価格を予測できない。作物の価格情報を提供できる信頼性の高い情報源か、もしくは価格を保証できるシステムが必要である。
  • 農家は月5 ~15%の高金利で資金を借り入れなければならない。このため農家の生産のための初期投資は非常に少ない。低金利の金融サービスへのアクセスが必要。
  • 収穫期に収穫作業を行う労働力が十分に得られない。そのため、収穫前後に大きなロスが生じている。そのうえ、労働費用もより一層嵩む。こうした労働力不足は機械化により解決できる。

4.農家が直面している問題

ヘーホー村やミンクン村の農民が、農業で直面している問題は、天候、害虫、種、肥料、労働力不足、インフラの未整備等多様である。

① 農家が信頼できる市場情報の入手難

かつて、米国のカリフォルニア州サリーナスのブロッコーリー農家で経験したことであるが、収穫をするにあたってまずは、1週間後の天気予報を確認してから準備を始めていた。そこを起点として、収穫チームへの連絡や集荷施設の使用など綿密な生産計画を練って進めていた。しかし、ミャンマーの農村部では、天気や農産物価格等の農業関連情報について、正確な情報の入手が難しい。

例えば、農産物価格の情報は、輸送業者や町に農産部を売りに行った隣人・仲間、ミャンマー国営ラジオ・テレビ局(MRTV)による作物の市場価格案内等であるが、情報は信頼に足るものではない。

ヘーホー村の農民の主な情報源としては、スカイネット(衛星放送)、FM放送(チェリーFM)、仲買人、週刊誌、仲間、肥料会社ダイヤモンドスター社の社員(年に一度、村に来る)、農業エクステンションサービス等であるが、天気予報や価格情報はチェリーFMをよく聞いているようである。また、ARMO(アルモ)のような肥料会社の役割が大きい。

また、農民が記録を取らないということも障害となる。正確な情報の入手や情報の記録をすることで、農家は翌年にどの作物を栽培したら収益があがるのか、選択肢が広がる。農家の行動を変えるには、正確な情報が必要となる。

② 農業資材・機器へのアクセスの問題

農薬に関する知識不足

農家は害虫を防ぐために適量かつ適切な農薬を常時保有していない。すぐに購入できる資金をすべての農民が持つわけではない。

農家は、農薬を使用すると生産量が倍増すると考えており、収穫量を増やしたい農家は農薬を多投したがる。しかし、農薬に関する知識は多くはない。闇市場(タイまたはインドからの輸入)の製品の方が殺虫効果は高いかもしれないと言う農家もおり、時にはそうした製品を使用している。

肥料と同様に、ほとんどの農家が販売員から勧められた製品を使用している。ブランドの違いについては、あまりわかっていなく、特にブランドにはこだわらない。農薬は効果的かつ価格が手頃でなければならない。その他の基準(原産国等)は二の次である。

ミンクン村では農民の大半は、殺虫剤や殺菌剤にオーバのブランドを使用している。マグウェ郡内でもオーバが比較的浸透しているようである。オーバの社員が村を訪れ、農民に病虫害発生に関する知識を与え、病虫害への対策を教えるなどの啓蒙活動を行っている。また、オーバは取次店に対し信用で卸し、代金の支払いには4カ月間の猶予を与えている。こうした便宜が、オーバ製品が浸透している要因でもある。

オーバを除く他の機資材サプライヤーは、農家がきちんと代金を支払うとは信じていないので信用販売はしていないという。ある販売業者は「肥料を信用で販売するならば、1日ですべてを売りつくすことができる。しかし、農家は返済したくないために、収穫期になっても店に現れないであろう」と語った。

表 ヤンゴンで最も売れている農薬ブランド

ブランド名原産国売れ行き入手
しやすさ
主な輸入業者/
流通業者
推定市場
占有率
(%)
Propenofos 50%
  Cynophose 500 cc
タイ低い良いライズ・トレード・インターナショナル5%
Cyclone 500 ccドイツ良い良いオーバ25%
Forst Stand 500 ccドイツ普通良いオーバ10%
アセフェート500 ccドイツ普通良いオーバ10%
Furam 1 kgベトナム普通良いモーラミャイン10%
Funthoate 1 Lシンガポール普通良いモーラミャイン10%
Cyper 1 Lシンガポール良い良いモーラミャイン10%
アバメクチン1.8%
  Show Mac 500 cc
タイ低い良いライズ・トレード・インターナショナル5%
ジメトエート
  40EC 1 L
ベトナム普通良いモーラミャイン10%
Trycell 1 Lインド低い良いモーラミャイン5%
出所:ジェトロ「ミャンマーの農業機械資材市場調査」(2013年)

肥料 、売れ筋は廉価な中国製品

農業投入財のなかで肥料に対する需要が最も大きい。ほぼすべての農家が肥料を使用する。農民は機資材にかかる費用を減らしたがっており、廉価な肥料が市場で最もよく売れている。

マグウエ地域で販売されている肥料のブランドには、ゴールデン・ライオン社製のダイヤモンドスター複合肥料、ダイヤモンドスター社が卸しているアルモ複合肥料、雲南トップブランド(Yunnan Top Brand)社が卸している複合肥料、オーバ社の複合肥料等である。ヘーホー村やマグウェでは、ダイヤモンドスター社のアルモ複合肥料に人気があるようである。アルモの価格はオーバ社が卸している肥料よりも安いからである。また、市場でアルモが知れ渡っているもう一つの理由は、この地域に導入されてから長い年月が経っているためである。オーバ社が卸している肥料と比べ、農家はアルモに慣れ親しんでいる。

下表は卸売業者/輸入業者から挙がったミャンマー南部(ヤンゴン、エーヤワディ、バゴー、カレン、モンの各管区)では人気がある肥料のブランドである。ブランドの人気度は地域によって異なる。

表 ヤンゴンで売れている肥料ブランド(2013年)

ブランド名原産国売れ行き入手
しやすさ
主な
輸入業者/
流通業者
推定
市場占有率
(%)
Shwe Taunggyi中国良い良いスサン25%
Than Gwin 複合肥料中国良い良いスサン14%
Awba 複合肥料各国
 (ミャンマーで再梱包)
良い普通オーバ12%
MPEミャンマー良い低いエネルギー省10%
Zebra 複合肥料各国
 (ミャンマーで再梱包)
普通良いゴールデン・キー8%
Armo 複合肥料各国
 (ミャンマーで再梱包)
普通普通ダイヤモンド・スター8%
MarlarMyaing 複合肥料各国
 (ミャンマーで再梱包)
普通良いモーラミャイン8%
Golden Lion 複合肥料中国普通良いゴールデン・ライオン7%
Duwon 複合肥料中国低い良いスサン5%
Bio Supreme 複合肥料ミャンマー低い良いバイオ・スプリーム3%
出所:ジェトロ「ミャンマーの農業機械資材市場調査」(2013年)

良質の種子の入手難

ほぼすべての農民が、彼らが使えるタネの品質が悪いために収穫率が低いと認識している。収量増加には質の高い種子が必要であることを何度も繰り返していた。こうした高品質種子を販売する店舗はマグウェ郡内にはないとのことであった。マグウェ市内には種苗店は2店舗に過ぎない。このうち1店舗は、ナス、ヒョウタン、ニガウリ、キュウリ、オクラ、トマトなどの野菜の種子を販売し、もう1店舗は水稲種子、豆類種子、油糧作物種子などを販売している

ゴマや水稲をはじめとして高収量の質の高い種子が手頃な価格で店舗に並べば、農家およびメーカーの両方が恩恵を得られる。

低い農業機械の普及率、

ヘーホー村では、農民の約20%が耕運機を所有、他に水ポンプや荷車を所有する農家もあった。村にある耕運機のうち“アユタヤの水牛”と呼ばれている耕運機が17台、“アユタヤの象”(水牛よりも高性能)が3台。耕運機を持っていない人は、水牛で耕すか、借りるかのいずれかとなる。借りるにしても耕運機の順番はなかなか回ってこない。必要な日・時間帯に借りることができず、収穫ロスをもたらす。

耕運機の賃借料は1時間当たり3,000チャットである。農地1エーカーあたりの機械の所要時間は5~6時間である。作業を急ぐ必要があるときのみ耕運機を借りることがあるが、依然として牛や水牛を使って田起こしやしろかきを行っている。

ヘーホー村で使われていた農業機械・機器の価格は次のとおりである。

中古の耕運機の価格-110万チャット

タイ製の耕運機の価格-180万チャット
(大型、現地では「タイの象」と呼ばれる)

タイ製の耕運機の価格-155万チャット
(小型、現地では「タイの水牛」と呼ばれる)

荷車の価格(ミャンマー製)-140万チャット

荷車の価格(中国製)-200万チャット

長パイプ付き水ポンプの価格-90万チャット

ミンクン村では、農家は牛を使った伝統的な農耕法を実践している。機械はめったに見られない。農家には高価な農機具を買う余裕がないためと、機械化に投資する価値が見出せないからである。ミンクン村にある農業投入財販売店は2店舗ある。2店舗とも農薬や肥料を販売している店である。

州都マグウェには、肥料、種子および農機具の販売に特化した農業投入財販売店が約30店あるが、耕運機やトラクターを販売する農機具販売店はない。あるのは、揚水ポンプ、鋤、小型トラクターおよび他の農機具を販売する店舗は1店だけであった。この店舗がマグウェで営業を開始したのは2011年のことであった。この店舗に対するメーカーからの技術支援はない。信用販売サービスはない。

なお、ジェトロが実施した潜在ニーズ調査ミャンマー農業機資材(2011年度)によれば、ミャンマーにおける農業用機械の使用状況は、ミャンマー全体でトラクターを使用している農家の割合は1割超、耕運機は2割弱と機械化が遅れている。

「新品を購入し、利用している」が全体で45.6%、一方、「別の人が購入したものを必要な時だけ有償で借りている」が、46.7%。シャン州では「別の人が購入したものを必要な時だけ有償で借りている」が77.3%と高くなっている。

ヤンゴンで最も売れている耕運機ブランド(2013年)

ブランド名原産国売れ行き入手しやすさ推定市場占有率(%)
Yee Shin(ゴールデン・バッファロー)中国良い良い15%
東方中国良い良い15%
ToYo中国普通良い10%
Chin Thae(ライオン)タイ低い良い5%
Kyoe Kyar(クレーン)中国良い良い10%
カトー(KaTo)タイ普通良い10%
Taung Paw Kywe(バッファロー)中国普通良い5%
Sin(エレファント)タイ低い良い5%
インフン(Yin Fung)中国良い良い15%
Shwe Sin(ゴールデン・エレファント)タイ低い良い5%
Kywe(バッファロー)タイ普通良い5%
出所:ジェトロ「ミャンマーの農業機械資材市場調査」(2013年)

ミャンマーの耕運機の販売は、中国製品が、エーヤワディ、バゴー、マンダレー、ザガイン管区で売れ行きが良い。タイ製耕運機は、主にシャン州(シャン州南部タウンジー)およびカレン州(チョンドー、パアン)で売れている。

中国製耕運機は、大雨でぬかるむことのある、バゴーまたはヤンゴンのような平地では好まれているようである。タイ製耕運機は、丘陵地/高原(シャン州およびカレン州)で、牽引力が良いとして好まれているようである。

一般的に、中国製耕運機は農家だけでなく、注文や輸入が容易なことから、販売業者にも広く受け入れられている。東方は、中国製品の中でも人気のブランドである。

タイ製のNC 131プラス(クボタ)も、店によっては人気がある。品質が良く、スペアパーツの多くがヤンゴン地域で入手できる(その他の地域ではあまり入手できないようである)

③ 農民がアクセスできる資金調達先

農家は高品質の機械・資材を購入できるならば、生産量を上げ、収入を増やすることができると考えている。しかし、一部の大農を除き、農家は一般に収入が低く、良質の肥料や種子、農薬、農業機械を買う余裕がない。また、信用貸しについては、機械・資材サプライヤー(販売店)が、農家は信用できないと考えており、農家は販売店から信用を得ることは難しい。その結果、こうした機械・資材を購入するために、貸金業者から借金をしなければならないこともある。

農民が可能な資金調達先としては、マイクロファイナンス、ミャンマー農業開発銀行(MADB)からの農業ローン、寺の融資、村の高利貸・質屋、仲間などである。しかし、事業資金(日本円にして20万円程度)を貸してくれる所はなく、親戚や友人など個人的関係に頼らざるを得ない。

マイクロファイナンスによる借入

ミンクン村では、国際連合発展計画 (UNDP) が女性向けマイクロファイナンス事業を実施している。この事業は、2012年に開始され、援助対象者には1エーカー400,000チャットを利息は月0.7%で融資するというものである。融資を受けた女性は、5ヶ月に1回の返済をするよう求められる。UNDPは1ヵ月に一回訪問してくるとのことである。

へ-ホー村でもUNDP(PACTが代行している)が、30万チャットを限度に融資している。期間は8か月で、返済は毎月取り立てにくる。しかし、村長が保証人となるということで手続きが面倒であるということであった。

ミャンマーでマイクロファイナンスが初めて実施されたのは1997年、UNDPのパイロットプロジェクトとして始まった。マイクロファイナンスを行っているNGOとしてはGRET、Professionals for Fair Development、PACT、AMDA、Association of Medical Doctors of Asia、セーブ・ザ・チルドレン、ワールド・ビジョン、ガス事業を行う民間企業そしてバングラデシュのBRACが2014年に新規参入した。

ミャンマー農業開発銀行(MADB)の農業ローン

これは、家を対象とした融資。融資の実行は6~7月で、12月に返済しなければならない。金利は月額0.7%である。10エーカー以上を所有する大農は対象とならない。

寺院の融資

ミンクン村の農家によれば、寺院が金融機関としての役割を果たしていることであった。その農家は、ボランティアとして寺のお世話をしているということだったが、寺への寄進がファイナンスの役割を果たしている側面もあるらしく、農家によっては寺から借金をし、その際の利子は寄進として寺の資産になるということであった。

村の貸金業者や質屋からの借入

ミンクン村では通常、住民は村内の貸金業者を利用する。担保がない場合の利払いは月額10~15%になる。金を担保とする場合、貸金業者の場合、金利は月5%、町の質屋は同じ条件で月2.5%しか取らない。

金利水準は、貸金業者との個人的な付き合いや信頼関係の程度によって左右される。マグウェの金貸しからの融資の際に生じる利子は月10%程度ということであった。

農民は収穫後に返済するが、問題は不作のときである。他の貸金業者から借金して返済することもある。この場合、元金の返済だけでなく、利払いのためにも借金をしなければならないので、利払い負担は二重になる。

返済のために、自分の牛や圃場を売却するケースもある。まず、初めに高く売れそうな牛を売って現金化し、借金を支払って残りが出れば、再び牛を購入する。牛を手放すことは農業を放棄することに等しいからである。

牛や圃場を売り払った農民は債務に陥り、日雇い労働者に転落するか、村を離れることになる。貧困の悪循環にはまっていく。

④ 農業作業員の不足と労務費の増加

播種から収穫まで農作業には農業作業員を必要とする。すべての農民が同時に農業作業員を必要とするため、必要な時に作業員が集まらない状況にある。他の村から作業員を集めると交通費を上乗せするため支払う賃金が上がる。

ミンクン村の大農家は、「日雇いの農業従事者が集まらない」ことが悩みであると述べていた。このため、賃金を1日3,000チャットに引き上げ、さらに住居、食事、衛星放送などを提供して、農業作業員を住み込みで囲い込んでいた。

ミンクン村では、農業作業員の賃金は一日当たり約1,500~2,000チャット。労働時間は午前6時から午後6時まで12時間。賃金額は労働者に対する需要の多寡にも左右され、需要と供給のバランスにより変わる。夏季には日給賃金労働者は最低で日給1,500チャットしか稼げないが、雨季には日給2,000チャットを稼ぐ。

表:農作業別日給一覧

情報源:2013年8月マグウェ管区にて各農家への聞き取り調査による
出所:ジェトロ「ミャンマー農村地域における農民生活実態調査マグウェ郡ミンクン村の事例」(2013年11月)

⑤ 伝統的農法の限界

ヘーホー村の農民によれば、自分の農地は昔と比べて格段に生産性が落ちている。過剰な耕作と農薬の使用で農地の質が落ちたのではないかと懸念していた。しかし、農地の生産性を持続させるために、どれだけの農薬と非有機肥料が必要なのか、誰もよく知らない。農民は使用法を誤って、農薬や除草剤を多量に用いているので、土壌の質や農薬・除草剤に対する耐性に影響を及ぼしている可能性もある。

また、多毛作は作物の混合を招く。多種栽培は、質の低下を引き起こす。前年に収穫した作物を種子として利用することも作物の質低下につながる可能性があるなど伝統的な農法にも問題がある。

ミンクン村では、農家は季節毎に小農地で様々な作物を栽培している。4エーカーほどの狭小地に水稲、キマメおよびゴマを栽培している。また、作付けされる作物も年ごとに変わり、例えば赤ゴマが翌年は白ゴマになることがある。その結果、混作となり、単一作物に全エネルギーを費やしたら得られるはずの高い利益が期待できない。各作物の栽培量も非常に少ないので、得られる利益も小さくなる。

⑥ インフラの未整備

集落内の道路が改善し、自動車で移動しやすくなれば、収穫物の販売が容易になることは前回述べた。

ミンクン村では灌漑用水の利用が関心事であった。農家灌漑水路は十分に整備されておらず、灌漑用水は農家全戸には行き渡っていない。ミンクン村で灌漑用水を利用できる農家は全体の39%に過ぎない。

灌漑水路は土水路で、漏水がみられる。この場合、農民は自分で修理しなければならない。漏水や機械の問題により、農民は時として自分の農地を灌漑するのに2~3日待たなければならない。不規則な水の供給は収穫量に悪影響を及ぼす可能性がある。また、水供給が不定期になることから、除草作業が増え、そのためにより多くの資金も必要となっている。農民はこの問題を解決するための戦略を持ち合わせていない。農民は水路がコンクリートで建設され、自らの負担が減ることを期待している。

⑦ 庭先価格と最終の販売価格とのかい離

ヘーホー村の農民は、ジャガイモを仲買人に販売している。仲買人は各農家を回って庭先でジャガイモを購入する。庭先価格は、聞き取りをした2012年では、1BIS(1.6Kg)当たり300チャットであった。仲買人は集荷地(アンバン)に運び、流通業者に渡す。輸送費は1BISあたり55チャット。輸送費の負担は卸売業者である。ヤンゴンの野菜卸売市場イエナウでは、卸売り業者が、1BIS 当たり475チャットで販売していた。そこで仕入れた小売業者は伝統市場で780チャット(袋売り)の値段をつけて販売していた。さらに、大手のスーパーマーケットではさらに小分けして1300チャットの値段がついていた。農家は高い価格で売りたいが、仲買人の言い値でジャガイモを売らざるを得ない。

ミンクン村の農家も同じような状況にある。表は、ヤンゴンおよびマグウェの豆類卸売価格の比較である。ヤンゴン市場とマグウェ市場の1トン当りの価格には非常に大きな違いがあり、その差は10万チャット前後から20万チャット余りにもなる。農民が豆類を売却した取引業者(仲買人)からその豆類を購入する卸売市場を基にした価格なので、農民の受け取り価格はかなり低い。流通経路が長くなればなるほど、農家の出荷価格は下がり、農家が受け取る価格は低下する。

仲介業者は、買い取った農産物を選別したり、等級を付けたり、付加価値をつけたりすることはない。仲介業者は、郡の取引業者とヤンゴン(Yangon)やマンダレー(Mandalay)の最終製品生産者または輸出業者との間に立つ中間業者の役割を果たしている。仲介業者は、売上高の1%を利益として受け取っている。

表 ヤンゴンおよびマグウェの豆類卸売価格の比較

No項目単位マグウェヤンゴン
1落花生(赤)トン1,071,8751,163,750
2落花生(白)トン1,102,5001,194,375
3ヒヨコマメトン557,697  701,312
4キマメトン545,125   826,875
5フジマメ(黒)トン1,102,5001,225,000
6フジマメ(白)トン1,163,7501,378,125
7リョクトウトン725,328967,137
8ゴマ(赤)トン1 ,320,178ヤンゴン市場の卸売価格は不明
9ゴマ(白)トン1,497,195ヤンゴン市場の卸売価格は不明
10ゴマ(黒)トン1,633,333ヤンゴン市場の卸売価格は不明
出所:ジェトロ「ミャンマー農村地域における農民生活実態調査~マグウェ郡ミンクン村の事例」(2013年11月)

<注>

1.本稿は現地での聞き取りに加えて以下の資料に基づき(一部引用)執筆した。
ジェトロ「ミャンマーの農業機械資材市場調査」(2013年10月)
ジェトロ「ミャンマー農村地域における農民生活実態調査マグウェ郡ミンクン村の事例」(2013年11月)

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