ITIコラム

2019年10月25日

 

新NAFTAでビジネス・チャンスを拡大できるか

高橋俊樹
(一財)国際貿易投資研究所
研究主幹

 

様子見の日本企業

NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉は2018年9月に北米3か国の間で合意に達し、11月の署名を経て、新NAFTAはUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)と名付けられた。2019年の秋以降の米議会で最も関心を集めている案件は、そのUSMCAの実施法案の動きである。メキシコでは2019年6月にUSMCAの実施法案は可決されたが、米国ではその去就は民主党のペロシ下院議長の手のひらの中にあり、彼女の采配で年内の批准が行われるかどうかが決まる状況にある。

民主党とUSTR(米国通商代表部)は、USMCAの実施法案の最終的な詰めを行っており、10月末から11月前半にかけて両者の間で合意に達すれば、年内の批准に道は開かれる。一方、トランプ大統領の弾劾訴追が優先され、USMCAの合意が後回しにされれば、年内の批准は難しくなり、トランプ大統領の来年の選挙に大きなマイナスの影響を与えることになる。

こうした環境下で、一般的な日本企業のUSMCAへの対応は、様子見で明確な戦略を打ち出せない状況が続いている。これは、USMCAの新ルールはあまりにも厳格化されていることから、特に自動車関連では原産地規則(注1)などを達成できないケースも出てくると思われるので、その場合は既存のサプライチェーンを変更して新ルールに対応するよりも、むしろ乗用車や自動車部品の関税(2.5%)を支払った方が、コスト面でも労力の面でも現実的だと考えているためだ。さらに、USMCAの実施法案の審議が2019年内に実現できなければ2021年まで先送りされる可能性もあるし、もしもトランプ大統領が選挙で再選されない場合は、将来的にUSMCAの原産地規則などは米議会の承認なしで変更される場合があることも、様子見の要因である(注2)。

そうはいっても、いつかはUSMCAが批准されると考えられるので、新たな原産地規則を満たすために、米国製部材の調達を増やしたり、米国で生産を拡大する圧力が高まることは避けられない。USMCAの新しいルールを的確に理解し、今後の自社の北米展開がどのような影響を受け、どのような対応が必要かを練り直すことは不可欠であると考えられる。

労働改革や執行予算で議論が進展

ロバート・ライトハイザーUSTR代表は2019年5月、議会にUSMCAの実施に関する行政行動声明(SAA、Statement of Administrative Action)の草案を提出した。ペロシ下院議長(民)は、SAAの提出を受けて、9人の民主党議員からなるUSMCAワーキンググループ(WG)を指名し、批准するかどうかの問題点を探るよう指示を行った。WGのリーダーは、下院歳入委員会のリチャード・ニール委員長(民)である。

行政行動声明の提出からしばらく経っても、トランプ政権とペロシ下院議長らの民主党とのUSMCA批准への話し合いはなかなか解決の糸口を見いだせない状況が続いた。ペロシ下院議長はUSMCAの批准手続きを進める上での問題点として、ストライキや賃金交渉などのメキシコの労働者の権利行使が不確実なこと(注3)、環境対策において有毒投棄の増加などへの効果的な制裁が機能していないこと、バイオ医薬品のデータ保護期間を10年(注4)としたことで薬価が高止まりする可能性があること、労働・環境の協定の執行で問題があること、などを挙げている。

民主党のWGが作成したUSMCAの問題点はUSTRに提出され、USTRは9月11日、正式に民主党へその回答を通知した。これを受けて、民主党のWGはUSTRのスタッフと何度も協議を行っており、両方の議論の感触は良いと伝えられている。一方では、メキシコのオブラドール大統領は、ペロシ下院議長を始めとする民主党の懸念に対応する形で、2019年5月に連邦労働法を改正した。これにより、メキシコ政府は労働者の権利行使の改善を促進することになったが、依然として今後も過激な組合からの干渉を避けることは可能との見方もあり、民主党の要求をより的確に満たすような労働者の権利の確保が必要になっている。

ペロシ下院議長らは、メキシコの労働者におけるストライキや賃金交渉などの権利行使のメカニズムがUSMCAへ効果的に導入されなければ、生産コストで不利になる米国の労働者が雇用機会や所得の面で悪影響を受けると主張する。メキシコでの労働改革を進めるための執行予算に関しては、メキシコ政府は3割以上も削減すると発表しており、民主党はそれに対して反発の姿勢を見せている。実際には、メキシコ政府の労働改革予算の削減は、本筋とは無関係の雇用プログラムの予算削減であるようだ。

こうした予算削減への不満に対して、メキシコのオブラドール大統領は10月17日(木)、ニール下院歳入委員長に書簡を送り、労働改革の実施に対する支出の増加を約束した。この書簡によれば、メキシコ政府が2020年の労働改革予算を23%増加させる計画とのことである。ニール歳入委員長率いるWGは、同書簡が届けられる前の週にメキシコシティを訪れ、メキシコ当局者との間で労働改革予算等について議論を行っており、この動きはそこでの約束を反映したものに他ならない。

年内のUSMCAの批准は可能か

ライトハイザーUSTR代表は、行政行動声明の送付から30日経過後にUSMCAの実施法案を米議会に提出することは可能であった(規則上は6月29日から)。しかしながら、ペロシ下院議長などの民主党指導部は労働・環境などの見直しを強く求めているため、USMCAの実施法案は民主党との綱引きに解決の糸口が見えない限り提出されにくく、結局は、10月24日(木)現在においても議会には届いていない。

USMCAの批准の手続きが遅れる中で、共和党のマカーシィ下院少数党院内総務は、サンクスギビングディ(11月28日)までにUSMCA法案への投票が行われることを期待するとの発言を行った。ところが、ペロシ下院議長は9月24日、トランプ大統領が7月にウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談した際、バイデン前副大統領に関する調査を進めるよう圧力をかけたとされることで、弾劾訴追に向けた調査に入ることを表明した。ペロシ下院議長としては、2020年の大統領選を見据えて、トランプ大統領に揺さぶりを掛ける戦術を繰り出したものと思われる。しかし、同時に、USMCAの民主党ワーキンググループに対して、批准に向けたUSTRとの協議を精力的に行うよう指示を出している。

トランプ大統領を始め共和党有力議員は、ペロシ下院議長が弾劾裁判を優先し、2019年内のUSMCAの批准手続きを遅らせる可能性があることを危惧している。こうした中で、ペロシ下院議長は10月中旬の段階において、少なくとも表面上ではUSMCA実施法案の協議を意図的に抑える動きを見せていない。弾劾裁判とUSMCAとはそれぞれ別な案件として、切り離したアプローチを展開している。

民主党のリーダーの多くはUSMCAが広範に産業界や国民から支持を得ていることを認識しており、民主党議員の中にもその支持の広がりを重視する動きが見られる。つまり、ペロシ下院議長らがUSMCAの実施法案の審議にゴーサインを出すかどうかは、弾劾裁判とは別に、トランプ政権が民主党の要求(労働、環境、データ保護、執行等)にどれだけ応えられるかにかかっている。もしも、米議会での批准が2019年内に行われなければ、2020年は大統領選挙のため現実的には無理であり、その場合は2021年まで延びると予想される。

民主党が2020年の大統領選挙で勝利するには、2016年の大統領選で失った中西部などの中間層の票を獲得することが不可欠であり、そのためには、多くの支持を得ているUSMCAの議会での批准が有効である。USMCAが広く支持を得ている理由には、米国の農業分野はUSMCAでのカナダの供給管理政策の変更で、鶏肉、卵、乳製品の生産と輸出を拡大できるし、何百万もの多くの雇用を抱える自動車関連産業は、USMCAの原産地規則などの厳格化により雇用や部品の域内サプライチェーンの拡大を達成できること、などを挙げることができる。さらに、Eコマースの進展で、3,000万の中小企業がカナダやメキシコへの輸出を促進できる。

つまり、トランプ大統領にとってもペロシ下院議長にとっても、USMCAの批准は2020年の大統領選挙にとってプラスの材料になり得る。しかしながら、USMCAの2019年内の批准が実現するかどうかは、どちらに転んでもおかしくない状況にある。それは、トランプ大統領の弾劾訴追が表面化して以来、USMCAはペロシ下院議長にとって、これまで以上に政治的な案件になったからである。ペロシ下院議長は、USMCAの年内批准の有る無しのどちらが次の大統領選で民主党に有利に働くかを天秤にかけながら、その判断をできるだけ引き延ばす可能性もある。

民主党のWGによれば、USTRとの交渉は8回イニングで立ち往生しており、あと数回のミーティングが必要だとしている。文言の使い方でも両者の間で議論が行われており、「shall」と「may」などの単語の選択に時間を費やしているようだ。共和党はUSMCAの実施法案を可決しやすいように、「多事業者年金法」と抱き合わせで議会に提出し民主党の票を獲得する戦術を検討しており、年内の批准に向けた民主・共和両党の駆け引きが水面下で激しく展開されている。

ワイシャツの関税はUSMCAで下げられるか

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)は米国が途中で離脱したものの、日本を含む11か国間で既に発効しており、将来におけるそのメンバー国の拡大が期待されている。米国のTPP離脱は、トランプ大統領の就任時に発表され、それからトランプ政権は一気に米国第1主義の貿易政策を進めることになった。TPPは農産物を含めても95%の自由化を誇る。米国が離脱したので、当初の合意から20項目以上もの分野を凍結して発効したものの、環太平洋地域の貿易投資の発展に大きく寄与すると思われる。

このTPPを活用して日本から米国にワイシャツを輸出しようとしたのは、メーカーズシャツ鎌倉であった(注5)。米国はワイシャツに約20%の関税を課しているが、もしも、米国がTPPに加盟していれば、①紡ぐ、②織る、③縫製、という3工程をTPP域内で行うことにより、繊維の原産地規則であるヤーンフォワード・ルールを満たし、日本から米国へのワイシャツの輸出で関税を削減することができる。一般に、各国とも繊維製品や履物の関税は高く、国内産業を保護する傾向があり、米国はワイシャツだけでなく、Tシャツなどの肌着においても同様な高関税を課している。FTAはこうした高い関税で守られている分野への輸出に効果的である。残念ながら、トランプ大統領によるTPP離脱で、ワイシャツの関税削減の計画は断念せざるを得なかったが、ニューヨークに店舗を構える鎌倉シャツの米国での評価は高いようである。

日本と米国との貿易でTPPを活用することはできないが、2019年9月末に両国首脳が署名した日米貿易協定が発効すれば、それを利用して対米輸出における関税の削減が可能になる。ただし、米国における日米貿易協定の第1段階での関税削減は、関税率が5%以下の製品が対象であり、繊維製品は含まれていない。鎌倉シャツの日本から米国への輸出における関税削減の挑戦は、2020年の1月にも発効が期待される第1段階の日米貿易協定では、まだ実現することができない。

ただし、現時点の日米貿易協定では無理であるが、新NAFTA(USMCA) を活用して、日本から直接ではなく、メキシコの生産拠点から米国へ輸出する可能性は残っている。なぜならば、USMCAでは繊維製品の原産地規則において、北米産以外の材料(縫糸、ポケット裏地、ゴムバンド、被覆布)の使用を制限するなど、NAFTAよりもルールを強化しているが、一方では、繊維製品の原産地規則の例外である「非原産繊維製品特恵関税割当(TPLs)」を撤廃していないからだ。つまり、TPLsを活用すれば、日本などの域外からの材料を使っても、縫製などの製造工程を協定国で行うことにより、関税割当枠内では関税を削減できる。

米国は、NAFTA再交渉ではTPLsの撤廃を要求したが、最終的には米国の加墨からの輸入ではTPLsの水準を削減し、米国からカナダへの輸出ではTPLsを拡大する、ということで了承した。また、「レーヨン繊維」と「目に見える裏地」の非域内原産材料の使用を認めた。

バイオ医薬品やデジタル貿易などでチャンスが生まれるか

米国では、USMCAの議会での批准を巡る動きが本格化している。民主党のペロシ下院議長は、10年としたUSMCAのバイオ医薬品のデータ保護期間を短縮するよう要求している。なぜならば、このデータ保護の10年間と、特許期間の20年をプラスした期間の間は、ジェネリック医薬品(新薬の特許が切れた後に発売される医薬品で価格が安い)は販売できない可能性があるためだ。

このバイオ医薬品のデータ保護期間については、TPPでは8年としたが、USMCAは10年と期間を長くしている。これは、米国内での12年という規定を反映しているためである。データ保護期間を長くすれば、米国の新薬メーカーはその分だけジェネリック医薬品の市場参入を遅くすることができるため、競争力を維持しつつより大きな利益を確保できる。しかしながら、ペロシ下院議長は、データ保護期間の長期化で、薬価を下げることができなくなることを問題視している。薬価の高止まりで、消費者は高い薬を購入しなければならないし、政府の財政支出も増加する。

カナダではバイオ医薬品のデータ保護期間は8年、メキシコは5年であるため、米国が期間短縮に向かえば、両国とも反対しないと思われる。現在、トランプ政権と民主党ワーキンググループが検討中であり、もしも10年よりも短縮化されれば、ジェネリック医薬品の製造関連会社は北米でのビジネス・チャンスを維持拡大することが可能になる。

また、USMCAではデジタル貿易が1つの章として新たに付け加えられた。そのデジタル貿易章は、データの自由移転の保証、コンテンツへの関税賦課の禁止、データのサーバー現地化要求の禁止(金融分野も含む)、ソースコードの開示要求の禁止、などを含んでいる。USMCAは、国内税や消費税を課す場合があるが、音楽、ゲーム、ビデオ、電子書籍などのデジタル製品の関税やその他の料金を禁止し、データの自由な移転を保証するなど、域内のデジタル貿易を促進することは確実である。このUSMCAのデジタル貿易章は、そのほとんどを踏襲した形で日米貿易協定の第1段階の合意に組み込まれている。すなわち、日本企業はUSMCAだけでなく、日米貿易協定を活用して米国のデジタル市場に参入し易くなるのである。

デジタル貿易に関連して、USMCAでは一定額までの電子商取引において関税なしで越境取引ができるルールが導入された。米国はEコマースによる取引において、既に800ドルまで税関での無税枠を拡大している。これに対応して、USMCAにおいてカナダは20Cドルから150Cドルへ、メキシコは50ドルから117ドルに無税の上限を引き上げている。USMCAの影響報告書は、これにより米国の電子商取引によるカナダへの輸出は3.3億ドル、メキシコへの輸出は9,100万ドル増加すると見込んでいる。すなわち、本や雑誌、CD、医薬品などのEコマースを利用した中小企業の越境サービスは、USMCA発効の恩恵を受けることになる。

自動車・同部品へのインパクトと対応

USMCAが発効すれば、自動車・同部品の原産地規則が大きく厳格化されているため、北米域内原産の製品であることを達成するのが困難になる。自動車や一部の自動車部品は、最終的には75%の域内原産比率を満たすことが求められる(現行のNAFTAでは62.5%)。そのため、北米での企業の生産活動は、これまでよりアジアや欧州などの域外からグローバルに部材を調達することが難しくなる。その代わりに、北米原産の部材を調達する割合が高まり、対米投資を促進し米国での現地生産の比率を引き上げざるを得なくなる。これがコストアップにつながり、北米で生産された製品の競争力の低下をもたらす。

USMCAにおいては、自動車の完成車に組み込まれるエンジン、トランスミッション、リチウムイオン電池などの「スーパーコア部品」(注6)や「自動車部品の基幹部品」(注7)は、75%の高い域内原産比率を求められるだけでなく、原産地規則の達成に最も多く使われる関税番号変更基準(CTC)を利用できない。CTCとは、北米域外から輸入した自動車部品が域内で付加価値を加えられ、輸入時の関税番号とは違う製品になった場合、域内原産であることが認められ、関税が減免されるルールのことを指している。したがって、スーパーコア部品や基幹部品ではCTCを使えないため、その多くを北米域内から調達しない限り、メキシコやカナダから米国への輸出において、乗用車では2.5%、SUV・ライトトラックでは25%の関税を支払わなければならない。

さらに、USMCA は時給16ドルを超える労働者が生産する北米の自動車工場からの部材購入額の割合が40%~45%になることを要求する規定(賃金条項)を新たに設けた。現時点のメキシコの自動車工場の平均賃金は5ドル前後なので、メキシコでの自動車生産において、賃金条項という原産地規則を満たすことは、賃金が20ドルを超える米国やカナダの工場から一定量の部材を調達しない限り困難である。

こうしたことから、メキシコで生産する日本や欧州などの自動車関連メーカーには、北米原産の部材調達の割合を高め、対米投資を促進し米国での現地生産や現地販売の比率を引き上げるような圧力が高まることは確実である。しかしながら、必ずしもUSMCAの規定の全てが日本企業にネガティブに作用するとは限らない。新NAFTAでは自動車・同部品を中心に原産地規則の基準が厳しくなったものの、同時に、域内原産比率の計算で高水準に引き上げられた付加価値比率の達成を助ける新たなルールが導入されたからである。

例えば、USMCAでは、エンジンなどの製品の域内原産比率の計算で原産地規則を満たしていれば、エンジンの組み立てに用いた部品に非原産材料を使用したとしても、それを100%北米原産材料とするロールアップ基準を認めている。また、TPPと同様に、域内で行われた「非原産材料の加工に係る価額」、「非原産材料の生産に使用された原産材料の価額」を原産割合の1部として換算することができる完全累積(注8)の概念が導入された。それに、デミニマス規定(注9)により、現行のNAFTAでは北米域外からの原材料は製品価格の7%までは非原産材料にカウントされないが、新NAFTAでは10%まで考慮されないことに変更された。これにより、非北米産の部材の利用可能性が拡大することで、これまでNAFTA税率が適用されなかった製品がUSMCAの低関税率の対象になる可能性を増すことになる。

しかも、USMCAの原産地規則を満たすならば、米国のメキシコとカナダからの乗用車の輸入は260万台まで、ライトトラックの輸入は数量無制限で米通商拡大法232条(注10)による追加関税(25%) の対象から外れることになる。自動車部品については、メキシコからの輸入額は1,080億ドルまで、カナダからの輸入額は324億ドルまで追加関税の対象外となる。すなわち、USMCAのサイドレターで約束された232条適用除外の上限を超えなければ、原産地規則を満たしている場合は自動車・同部品の関税は無税、例え満たさなくても乗用車の関税は2.5%で済むことになる。

ここで見逃してならないことは、米国のメキシコとカナダからの対米自動車・同部品輸入における232条の回避枠にまだ余裕があるということである。2017年の米国のカナダとメキシコからの乗用車の輸入台数は180万台前後であるし、自動車部品の輸入出額ではカナダからが178億ドル、メキシコからが495億ドルであった。すなわち、カナダやメキシコの日系自動車関連子会社は、これからも米国のカナダやメキシコからの自動車・同部品の輸入を拡大できる余地があるのだ。

以上のように、USMCAの原産地規則は複雑であり、個々の業種や品目によってその北米やそれ以外の国・地域からの調達戦略が変わってくるので、十分にその内容を吟味・分析した上で、サプライチェーンの再編を検討することが必要である。つまり、将来のUSMCAの発効を控え、アジア・中南米を含む広域の拠点からFTA/GSP(一般特恵関税)等を活用した対米輸出を行う新たな北米戦略を探らなければならない。

 

(注1) 一定の北米原産材料の使用を求める規則で、北米産と認定されれば関税が削減・撤廃される。北米産とみなされるには、①関税番号の変更、②域内原産比率の達成、③加工工程基準の達成、等の条件を満たさなければならない。

(注2) 日本企業の様子見の要因としては、本文での説明以外には、①メキシコでのピックアップ・トラックの製造では他の北米からの部材の調達が多いため、域内原産比率も賃金条項もクリアする可能性がある、②通商法232条による25%の追加関税の適用回避の上限に達するにはまだ伸びしろがある、③メキシコ政府の支援の可能性がある、④ある日系自動車メーカーのメキシコから米国への輸出はピックアップ・トラックが中心、などの要因が挙げられる。

(注3) 民主党は、メキシコで労働法が改正されてもそれが適切に実行されるかどうかについて懸念しており、確実に実施される条件を協定に組み込むことを要求している。また、米国政府が労働基準でメキシコに対して紛争解決パネルの開設を要求しても、USMCA協定ではメキシコ側がそれをブロックすることができることを問題にしており、その解決が批准における1つの障害になっている。

(注4) バイオ医薬品のデータ保護期間の短縮化で、さらなるUSMCAの再交渉を求める議員もいるが、米議会が国内データ保護期間を10年未満に引き下げる法律を制定した場合、USMCA第34.3条に基づいて協定を修正することができる。

(注5) 日経電子版 Men’s Fashion 2018/8/12より

(注6) スーパーコア部品とは、①エンジン、②変速機、③車体・シャシー、④車軸、⑤サスペンションシステム、⑥ステアリングシステム、⑦次世代電池、の7品目を指す。域内原産比率の計算では、完成車の域内原産を満たすため、単一の部品として計算可能 

(注7) 自動車部品の基幹部品(Core)の域内原産比率は75%:エンジン、リチウムイオン電池、ショックアブソーバーなど17種類の部品。

(注8) 完全累積基準:通常の累積制度は、域内で原産地規則を満たした部品のみ累積ができるが、完全累積制度の場合には、部品自体が原産地規則を満たしていなくても、域内で行われた非原産部品の加工に係る価額や非原産部品に含まれる原産部品の価額は原産割合の1部として計算できる。

(注9) デミニマス規定は、関税番号変更基準の例外規程の一つとして使われる。関税番号変更基準(CTC)では、用いられる部品や原材料の関税番号(HSコード)が変わることが求められる。ある最終製品のXが域外の非原産材料のAとB、及び域内の原産材料の幾つかを用いて生産される場合、Aは関税番号変更基準をクリアしたとしても、Bはその条件をクリアできなかったとすれば、製品Xは原産地規則を満たすことができない。しかしながら、もしもBの価額が製品X全体の10%以下であれば「僅少の非原産材料」として無視することが可能になり、この製品Xは域内原産と認定される。

(注10) 米通商拡大法232条は、外国製品の輸入が米国の国家安全保障を損なう恐れがある場合、追加関税の賦課等の措置を発動する権限を米国大統領に与えている。