フラッシュ341
2017年8月1日
 

空席だらけの米連邦政府高官ポスト

 
滝井 光夫
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
桜美林大学 名誉教授

 

このところスパイサー大統領報道官の辞任、プリーバス首席補佐官の更迭など、トランプ政権の骨格が揺らいでいるが、こうした動向とは別にトランプ政権発足以来半年間の政府高官人事の状況を見ておこう。

政権交替で約4,000人の人事異動

米国では大統領が変われば、回転ドア(revolving door)が回るように、前政権の連邦政府高官、いわゆる政治任用者(political appointees)はごっそりと前政権を離れて野に下り、新しい高官がどっと新政権に入ってくる。これが、米国の有名な回転ドア人事である。

この連邦政府の人事異動は約4,000人に及ぶ。2016年末にOffice of Personnel Management(OPM、日本の人事院的な政府機関か)が発行した226ページの “Policy and Supporting Positions” と題した分厚い印刷物(表紙が濃い紫色であるため “The Plum Book”と呼ばれる)には、トランプ政権下の連邦政府職員約9,000人の職種が掲載されている。9,000人のうち5,000人は大統領が変わっても異動しないから、新大統領の就任に伴って4000人が新規に採用される。就職希望者はこの本を見てOPMに一斉に履歴書を送るわけである。

4,000人の内訳は次のとおりである。①上院の承認を必要とする連邦政府高官(政治任用者)1,242人(各省庁および関係機関の長官、副長官、次官、大使等)、②大統領が指名するが、上院の承認を必要としない大統領補佐官、大統領報道官などホワイトハウスのスタッフを中心とする472人、③日常業務の管理職761人(non -career Senior Executive Service)および④大統領が指名した高官の下で働く管理職ではない職員1,538人(Schedule C appointees)である。以上①~④の合計が4.013人となる。

上記①の政治任用者約1,200人については、連邦議会上院の関係委員会が本人を招致して審議した後、上院本会議の票決に付され、過半数の賛成で承認される。この約1,200人のうち、省庁と関係機関の最重要幹部は570人(注1)とされる。この570人について、ワシントン・ポスト紙と非営利無党派団体のPartnership for Public Service は共同して、大統領の指名から上院による承認までの過程を克明にチェックし、その結果をPolitical Appointee Tracker というウェブサイトで発表している。

筆者はその存在をニューヨーク・タイムズ電子版の記事で知ったが、このサイトは政治任用者の承認状況を知るためには欠かせない。以下、主にこのサイトの情報を基にトランプ政権の幹部人事の状況をみてみよう。

4月末にずれ込んだ省長官の承認

トランプ政権では、大統領の就任100日目(4月29日)の直前、ようやく連邦政府全15省の長官が承認された。遅れたのは、アンドルー・パズダーの労働長官への指名が2月28日撤回され、その代わりにアレクサンダー・アコスタ(フロリダ大学法科大学院教授、閣僚では唯一のヒスパニック)が4月27日に承認されたことによる。

こうした状況は、オバマ第1期政権の場合と類似している。その時はダシュル厚生長官の指名が撤回され、セベリウス厚生長官が4月28日に承認された。ともに4月末まで長官の承認が遅れたのは異例である。直近の政権では、ブッシュ第1期政権が1月30日、クリントン第1期政権が3月11日に全閣僚の承認が終わっている。

長官しか承認されていない省が15省中9省

トランプ政権では、長官承認の遅れ以上に大きな問題は、政権が発足してすでに半年が過ぎた現在でも、長官に次ぐナンバー・ツーである副長官(Deputy Secretary)、その下の法律顧問(General Counsel)、次官(Undersecretary)、次官補(Assistant Secretary)がほとんど決まっていないことである。

7月19日時点で、15省のうち、長官だけが承認され、副長官から次官補まで誰も承認されていない省は農務、商務、教育、エネルギー、厚生、住宅都市開発、内務、労働、復員軍人の9省もある(財務省は副長官は承認されていないが、次官と次官補が各1人だけ承認済)。長官と副長官が揃っているのは、国防、国土安全保障、司法、国務、運輸の僅か5省にすぎない。

ポスト別にみると、法律顧問が承認されている省は皆無、次官が承認されているのは司法省(注2)、国防省(ただし承認されたのは8人中1人)および財務省(同様に3人中1人)の3省、次官補が承認されているのは国防省(12人中2人)および財務省(10人中1人)の2省だけである。次官と次官補は一部の省を除き各省とも複数いるが、すべて承認された省は全くない。国防省内には陸軍省、海軍省、空軍省の三軍の省があり、それぞれ長官がいるが、長官が承認されたのは空軍省だけである(陸軍長官は指名が撤回された)。

長官を除く政治任用者のうち上院の承認を得た者の割合は、国務省が7.1%(承認が必要な政治任用者は大使を含め127人)、国防省は11.5%(同52人)、司法省および財務省は7.4%(ともに27人)、厚生省12.5%(16人)、国土安全保障省13.3%(15人)で、承認されたのは全体の1割程度ないし1割以下という驚くべき状況である(表1参照)。

これでは、各省は十分にその機能を発揮できず、政策の具体化も進展しない。果たしてトランプ大統領はこうした状況を十分に認識しているのだろうか。

 

通商代表部(USTR)は3人の次席代表が空席

一方、省以外をみると、大統領府に属する経済諮問委員会(CEA)、行政管理予算局(OMB)、麻薬管理政策局(NDCP)、環境規制局(CEQ)、科学技術局(STP)、通商代表部(USTR)、さらに独立行政機関に位置付けられる中央情報局(CIA)、商品先物取引委員会(CFTC)、雇用機会均等委員会(EEOC)、環境保護局(EPA)、連邦通信委員会(FCC)、連邦取引委員会(FTC)、航空宇宙局(NASA)、証券取引委員会(SEC)、国際貿易委員会(ITC)などでもトップや委員などが決まっていないところがほとんどである。

貿易関係に限ってみると、通商代表部(USTR)では5月11日にようやくライトハイザー代表が承認されたが、次席代表の3人がまだ承認されていない。3人の内訳は、大使級の次席代表2人と大使級ではない次席の1人である(注3)。

貿易救済措置の発動に当たって、事実認定や産業等に及ぼす被害の有無を調査する国際貿易委員会(ITC)は現在2人の委員(任期は7年半)が在任中で、4人の委員(Commissioner)が空席だが、委員長の上院承認手続きが進んでいるものの、残り3委員はまだ指名すらされていない。なお、ITCは委員長を含む6人の委員で構成されるが、判定に中立を期すため委員の配分は、民主党支持3人、共和党支持3人と決まっている。

まだ承認されていない経済諮問委員長

大統領府の一部である経済諮問委員会(CEA)の委員長もまだ承認されていない。CEAは1946年雇用法によって設置され、委員長と2人の委員で構成される。閣僚級のポストである委員長には、マーチン・フェルドシュタイン、ジョセフ・スティグリッツ、ジャネット・イエレン(現FRB議長)など米国経済学会を代表する錚々たる学者が就任し、大統領に経済情勢を報告し、経済政策を諮問する政府のチーフエコノミストの役割を果たしてきた。

しかし、トランプ大統領は初めてCEA委員長を閣僚級から外し、国家経済会議議長のゲーリー・コーン(前職は投資銀行ゴールドマン・サックスの社長)を重用している。大統領は4月7日、ケビン・ハセット(米国企業研究所(AEI)のシニアフェロー)を委員長に指名したが、まだ上院本会議で承認されていない。さらに2人の委員の指名も行われていない。栄光ある経済諮問委員長ポストもトランプ政権下では大きく変わった。また、レーガノミクスというように、政権の経済政策には確固とした理論的基盤があったが、いまやそれも無視された状態である。

最重要高官350人が依然として指名もされていない

Political Appointee Trackerを時々チェックしていると、他の政権に比べてトランプ政権の高官人事が如何に遅れているかがわかる。遅れの程度は、ここ数十年で最大といわれる。表2は、各政権の5月20日、6月30日および7月19日の時点における上院の承認人数、未承認人数および平均承認日数を示したものである。

 

一般にどの政権でも、大統領就任100日目以降、政治任用者の上院承認数は急激に増えるものだが、トランプ政権の場合はそうではない。直近の3政権では、7月19日時点で承認された政府高官数は5月20日時点の2倍(ブッシュ政権では3倍以上)に増えて、いずれも200人を超えているのに対して、トランプ政権では35人から50人に微増しただけで、承認された人数も直近3政権の4分の1という少なさである。

承認された人数が他の政権に比べて極端に少ないのに、7月19日時点の上院承認審査中の人数が170人でオバマ政権の165人並みというのもおかしい。上院の承認手続きは、大統領が指名した候補者の書類を上院に提出してから始まる。単に大統領が候補者を指名し、発表しただけでは上院の承認審査は始まらない。トランプ大統領が上院の承認ペースを早めようというのであれば、大統領が候補者をどんどん指名し、指名した候補者の書類を上院に提出するはずである。しかし、トランプ大統領が指名のペースが遅いため、上院の承認手続きが始まっていない人が350人もいる(承認が必要な人数570人-承認済50人-承認審査中170人=350人)。

なぜ候補者の指名が遅れているのか。要因は2つある。ひとつは、指名する側の問題で、どうやらトランプ政権に政府職員の数を増やさないという方針があるように思われる。ティラーソン国務長官やロス商務長官などは国務省や商務省の組織改革を検討していると伝えられる。しかし、これは政府機関の最重要幹部の指名を遅らせる理由にはならないはずである。何か他に根本的な理由が政権側にあるのか、トランプ大統領に指名の意欲がないのか、その理由ははっきりしない。

もう一つの要因は、指名される側に指名を受け入れたくない理由があるのかもしれない。例えば、トランプ大統領という指導者の下では働きたくない、トランプ大統領は候補者に大統領に対する忠誠を求めすぎる、スティーブ・バノン大統領首席戦略官の反エスタブリッシュメント志向を容認できない(注4)、トランプ大統領が首都ワシントンの浄化(drain swamp)を求めて1月28日に発出した大統領令(政治任用者は①退職後5年間ロビイストへの転職を禁止、②外国ロビー活動については終生禁止)によって、退職後の候補者の将来が制約される、トランプ大統領の省庁予算の大幅削減方針では十分な活動が期待できない、といった理由が、指名される側にあるともいわれる。

上院民主党の激しい抵抗

トランプ政権では、上院が候補者を承認するまでの日数も他の政権よりもかなり長い。表2のとおり、7月19日時点で、上院の平均承認日数はトランプ政権の45日に対して、他の政権は1週間から10日は短い。これは民主党の反対のためだとトランプ政権は主張している。上院本会議における承認反対票の合計は、トランプ政権が437。直近3政権(2期)は、オバマ政権が406と多いが、ブッシュ政権は157、クリントン政権は僅か18であった。

承認に対する反対票が極端に多いのは、トランプ大統領が民主党の政策に徹底的に反対する人物を閣僚候補に指名しているからでもある。何しろ、トランプ大統領の影の大統領とも呼ばれるバノン大統領首席戦略官は「(トランプ政権が)行政国家の解体を目指していことは閣僚の指名をみればわかる」とかつて明言したように、トランプ大統領が指名した閣僚は極端な考え方の持ち主が多い。例えば、オバマケア撤廃を目指すトム・プライス厚生長官、連邦所有地での資源開発を促進するライアン・ジンキ内務長官、パリ協定批准に反対するスコット・プルーイット環境保護庁長官、公教育を軽視し、チャーター・スクールなど私学を重視するベッツィ・デボス教育長官などがその代表である。民主党が就任に強く抵抗するのも当然であろう。

なお、デボス長官に対する上院本会議の票決は、共和党からも反対票が出て、賛否が50対50に割れた。このため、上院議長でもある副大統領が賛成票を投じることによって、ようやく過半数の票を得た。上院の承認人事で副大統領が票決に参加しなければならなかったのは極めて珍しい。

 

〔注〕
1.Political Appointee Trackerの最重要幹部の人数は若干だが変動している。5月時点では564人だが、7月19日時点では570人となった。
2.司法省には法律顧問に相当するポストがない。司法省の長官は Secretary ではなくAttorney General、副長官は Deputy Attorney General、次官はAssociate Attorney General、次官補は Assistant Attorney General。なお、司法省のほか厚生、労働、内務、住宅都市開発の各省にはUndersecretary のポストはない。
3.大使級のJeffrey GerrishとC.J. Mahoney は前者が6月15日上院財政委員会に付議された。後者は6月20日に大統領が指名したが、まだ上院の承認手続きは開始されていない。大使級ではない次席代表のDennis Sheaは7月11日上院財政委員会に付議された。
4.バノン首席戦略官の政治理念は次のようなものとされる。現在の米国は税制、規制、貿易協定等によって国の経済成長や個人の主権が阻まれる行政国家(The Administrative State)に陥ってしまった。このため行政国家の解体こそがトランプ政権の最大の目標であり、税制改革、規制撤廃、保護貿易主義を目指す。さらに移民を肯定せず、独自の文化的アイデンティティを保持する経済ナショナリズムを標榜する。