フラッシュ348
2017年9月6日
 

夏季休会明けの米連邦議会-審議の焦点と課題

 
滝井 光夫
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
桜美林大学 名誉教授

 

短い審議期間に多くの重要法案

米国上下両院議会は夏季休会を終え9月5日に再開する。現在の第115議会第一会期は来年1月2日までの4ヵ月間だが、秋から冬にかけてサンクスギビングデーやユダヤ教、キリスト教の祭日などがあるため、下院の実際の議会審議日数は合計48日しかない。上院の審議日程は発表されていないが、下院とほぼ同様とみられる。下院多数党院内総務ケビン・マッカーシー議員が計画した日程によると、月別の審議日数は、いまのところ9月は12日、10月は13日、11月は14日、12月は9日である(https://www.majorityleader.gov/2017-calendar/)。

審議日数は48日間だが、審議すべき案件は山積している。大きなものだけをみても、10月1日に始まる2018年度歳出予算、遅くとも10月半ばまでには上限を引き上げなければならない連邦債務、年内成立が待たれる税制改革、さらにインフラ投資法案がある。何しろ夏季休会直前にオバマケアの撤廃・代替法案が否決されたため、政権発足から8カ月が過ぎたのに、トランプ大統領が公約した重要法案は何ひとつ成立していない。今秋の議会で税制改革法などを成立させられなければ、トランプ政権に対する信認はますます低下する。

一方、ホワイトハウス内の人事変動は別にして、この夏はトランプ大統領を巡ってさまざまなことがあった。ボーイスカウト大会では党派的な言動はしないという不文律を破って、大統領に非協力的な共和党議員を激しく非難(7月29日)、セッションズ司法長官に続いて、オバマケア撤廃の失敗でマコーネル上院院内総務に対する執拗な攻撃(8月9日以降)、バージニア州シャーロッツビルにおける白人至上主義団体と反対派の衝突事件に対する「どっちもどっち」という驚くべき発言(8月15日)、この大統領発言に反発した大企業経営者の委員辞任の続出、それによる2つの大統領諮問委員会(製造業諮問委員会と戦略政策フォーラム)の解散(8月16日)などである。こうした一連の事態は、今秋の議会審議にも影響することになろう。

税制改革の詳細発表は9月後半

今秋の議会審議の最大の課題は、年内成立を目指す税制改革である。

7月末ムニューシン財務長官は、大富豪のコーク兄弟が2004年に設立した保守政治団体Americans for Prosperity 主催の会合で、「減税法案はレーバーデー(9月4日)明けから審議を開始し、11月20日から始まるサンクスギビング休会前に可決して大統領に届ける。アグレッシブな計画だが、これが我々のタイムテーブルだ」と述べた。財務長官は税制改革の詳細を明らかにしなかったが、その1ヵ月後の8月30日、トランプ大統領がミズーリ州スプリングフィールドで行った演説でも詳細は語られなかった。この演説は税制改革をテーマにしたもので注目されていたが、演説は「一世代(30年)に一回の抜本的な税制改革(sweeping tax overhaul)を行う」という当初の、いまでは絵に描いた餅となった主張を繰り返し、現行35%の法人税はできれば15%に下げたいとの希望を述べたに過ぎなかった。

しかし、トランプ演説の翌31日、ムニューシン長官はウォールストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで、税制改革の詳細発表は9月後半になると述べた(31日付WSJおよびThe Hill)。つまり、大統領は30日の演説で税制改革の中身を明らかにしなかったのではなく、中身が固まっていないので公表できなかったというのが真相であった。財務長官のタイムテーブルは7月末の発言からすると数週間遅れていることになるが、年内成立の目標は崩していない。改革実現のため、中道右派の政治団体American Action Networkはクリスマスまでに2,000万ドルを使って一大キャンペーンを展開するという。

税制改革の検討は、かつてはゴールドマン・サックスの同僚であった二人の銀行家、ムニューシン財務長官とコーン国家経済会議議長が進めている(注1)。この二人に議会側の4人(ライアン下院議長、マコーネル上院院内総務、ブレイディ下院歳入委員長、ハッチ上院財政委員長、いずれも共和党)を加えた6人、いわゆる「ビッグ・シックス」が税制改革を担っているが、減税幅などについて民主党の主張との隔たりは埋められていない。例えば、8月28日付ニューヨーク・タイムズ電子版(NYT)は、個人所得税率を現行の39.6%から35%に引き下げるという4月の当初方針は棚上げになるだろうと報じている。こうしてみると、税制改革の年内成立はかなり厳しいとみるべきではなかろうか。

政府閉鎖も辞さずというトランプ大統領

トランプ政権は5月23日発表の2018年度予算教書で、国防省、国土安全保障省、復員軍人省の予算は前年度比5~7%増とする半面、国務省、農務省、労働省は20~29%減、環境保護庁に至っては31%減とする方針を発表した。民主党だけでなく民間団体などもこれに反対しているだけに、政府案が年度開始前に議会を通過することは極めて困難である。短期間の暫定予算を成立させて新年度入りする可能性が高いが、暫定予算案が不成立となれば政府閉鎖は必至となる。

新年度予算では、ハリケーン・ハービーによる被災地救済のための緊急予算の計上も急務となる。9月1日、ホワイトハウスは当面の要求として合計145億ドルの予算計上を議会に要求したが、今回の救済予算の総額は2012年のハリケーン・サンディの時の500億ドルを大幅に上回ると予想されている。

一方、民主党の反対によって、9月末で終わる2017年度暫定予算では米墨国境の壁建設予算は計上されなかったこともあり、トランプ大統領は2018年度予算に壁建設の予算(予算教書では16億ドルを計上)が可決されなければ、政府閉鎖も辞さないと主張している。この主張は2017年度の最後の暫定予算が成立した5月から何度も繰り返されているが、大統領が国民生活に大きな影響を及ぼす政府閉鎖を脅しに使って、主張を通そうとするのは前代未聞である。

もう一つの大きな問題は、債務(国債発行高)上限の引き上げである。ムニューシン財務長官は7月28日付の議会宛書簡で、9月28日までに議会が債務上限を引き上げなければ、政府の手元資金は枯渇する恐れがあると通告した。通常、財務省は債務不履行(デフォルト)を回避するため特例措置を発動して一時的な資金を調達する。このため、債務上限引き上げ法案の可決の期限は最終的には10月半ばになるとみられる(注2)。上限引き上げ法案の成否とともに注目されるのは、議会が上限引き上げ法案に何らかの条件を付けるか、無条件で引き上げを認めるかである。議会が条件付き法案を可決しようとすれば、政府と議会との間で激しい攻防が予想される。

新年度予算の不成立で政府閉鎖となるか、債務上限の引き上げができずに政府が前代未聞のデフォルトに陥るか、事態は予断を許さない。なお、マルバニー行政管理予算局長(OMB)長官は下院議員時代、超保守派のフリーダム・コーカスの創立メンバーで、オバマ政権下では債務上限の引き上げに反対した。今回、超保守派のOMB長官がトランプ大統領と一緒になって、無意味な瀬戸際作戦を展開する可能性もゼロとはいえない。2013年10月1日から政府閉鎖が16日間続き、デフォルト危機が数回起こった2013年の事態が繰り返されないよう望みたい(注3)。

10年間で1兆ドルのインフラ投資計画

2016年10月22日、トランプ次期大統領は政権発足後100日以内に10本の法律を制定すると公約したが、そのひとつが10年間に1兆ドルのインフラ投資を財政赤字を増やさずに実施するという「米国エネルギー・インフラ法」の成立である。政権発足後、この計画については具体策が何も発表されていないが、The American Prospect誌7月3日号の“Who Is Wilbur Ross ?”と題する記事(http://prospect.org/article/who-wilbur-ross)に概要が書かれている。

これによると、トランプ当選前からロス現商務長官がナバロ現国家貿易会議議長と共にインフラ投資計画を練っていたという。今年6月、トランプ大統領は1兆ドルの中身は2,000億ドルが政府予算、8,000億ドルは税制優遇措置を受けた民間資金であると発表した。しかし、その後の歳出削減計画によって政府予算は1,390億ドル削減されて610億ドルとなった。一方、民間の融資額は投資対象額の5分の1を上限としているため、1,670億ドルの融資が確保できれば当初計画の1兆ドルはほぼ確保できるという(注4)。

すでにブラックストーン・グループは400億ドル、サウジアラビア政府投資基金は200億ドル(トランプ大統領の今年5月のサウジ歴訪で成約)などの出資が決まったが、年率約10%の配当をどう確保するか、コスト削減のため州の労賃、環境規制をどう抑制できるかなどの問題が残っているという。

また、トランプ大統領が、インフラ投資計画についてアドバイスする大統領の諮問機関である戦略政策フォーラム(議長はブラックストーン・グループの共同創設者スティーブン・シュワルツマン)を前述のとおりシャーロッツビル事件後に解散してしまったことも今後に影響するものとみられる。いずれにせよ、インフラ投資計画が今議会で「米国エネルギー・インフラ法案」といったものに結実するかどうかは極めて不透明である。

 

〔注〕
1.シャーロッツビル事件の大統領発言に対するコーンとムニューシンという二人のニューヨーク生まれのユダヤ人銀行家の対応は大きく異なった。15日の大統領発言に怒ったコーン議長は、辞任届の案文まで書いたが、妻や友人との相談の結果、辞任を思いとどまった(8月25日付フィナンシャル・タイムズとのインタビューによる)。理由の一つには、コーン議長が来年2月に任期が終わるイエレンFRB議長の有力な後任候補であることがあったといわれる。一方、ムニューシン長官は300人余のイェール大同窓生から辞任を促す手紙をもらったが、辞任は全く考えなかったという。
2.債務上限の引き上げと財務省の特例措置などについては、拙著「米国の財政問題:混迷を極める財政再建交渉」(国際貿易投資研究所『季刊国際貿易と投資』No.95、2014 年春号)および拙著「債務上限暫定延長法の成立とその背景」(同『フラッシュ』180、2014年3月18日)を参照。
3.2014年度冒頭の政府閉鎖とデフォルト危機の詳細については、上記注2の「米国の財政問題:混迷を極める財政再建交渉」を参照。
4.総投資額1兆ドルから政府出資の610億ドルを差し引いた9,390億ドルの5分の1は1,878億ドルとなり、これが民間出資額となるはずだが、出所の記事は1,670億ドルとしている。