フラッシュ365
2018年3月20日
 

拡大する中国に対する米貿易救済措置~ITI米国研究会報告(5)~

 
渡辺 亮司
米州住友商事ワシントン事務所

 

トランプ政権下、通商の政治問題化が進展している。既存の通商法の執行厳格化は、これまでも多くの政権が取り組んできており、オバマ前政権も例外ではなかった。だが、トランプ政権では発足以降、特にラストベルト地域の製造業や鉄鋼業などへの支援をアピールするため、関連業界からの貿易救済措置の提訴を歓迎し、米業界を保護する姿勢を従来以上に強めている点で歴代政権と異なる。

これまで担当省庁が日常業務の一環として行ってきた貿易救済措置も、トランプ政権下ではより多くの国民の目に留まるよう政治の表舞台に登場するようになった。公式プレスリリースで商務長官自らが毎回、調査結果を大々的に称賛するといった行為は過去には見られなかったことだ。本来中立であるべき商務省のアンチ・ダンピング関税(AD)、相殺関税(CVD)の審査は、歴代政権でも政治的な影響を受けてきた。

だが、トランプ政権下では政治的な影響がより顕著であり、業界が保護主義的なAD/CVD提訴をしやすい環境を同政権は醸成している。数値にもその影響は明確に表れている。2017年、商務省によるAD/CVD調査開始件数は計23件(注)に上り、2001年以来の最多を記録した。

なお、2017年11月、商務省が中国製アルミニウム製品に対するAD/CVDについて業界の提訴に基づかず同省の判断で調査を開始する「自主調査」を立ち上げた。商務省による「自主調査」は、ADは32年振り、CVDは26年振りの実施だ。今後、他の品目でもAD/CVDについての「自主調査」が行われる可能性を通商専門家は指摘する。「自主調査」は世界貿易機関(WTO)違反ではないが、商務省の結論ありきの調査実施で、貿易救済措置プロセスの政治問題化と一般的に捉えられている。

表-1 政権の権限で発動があり得る保護主義的な通商上の執行措置の強化

※クリックで拡大します

 

トランプ政権下、AD/CVD以外にも、長年利用されてこなかった通商法に基づく調査が多数開始されている(表-1参照)。対象の多くは中国を標的としている。2018年に入ってから1月30日のトランプ大統領による「一般教書演説」を前に支持基盤の白人労働者階級にアピールすることを狙い、政権は中国製太陽光パネルに対するセーフガードをはじめ複数の保護主義的な対策を発表した。セーフガードに続いて3月、トランプ政権が発動を決定したのが鉄鋼とアルミニウムに対する1962年通商拡大法232条だ。WTO発足以降では、米国が232条に基づく輸入規制措置を発動するのは初めてだ。米政府は同措置を通じて中国の過剰生産問題によって悪影響を受けてきた米国の鉄鋼・アルミ業界を保護することを狙っている。

なお、2017年8月、米通商代表部(USTR)は1974年通商法に基づき中国の技術移転策や知的財産権侵害などの調査を開始したが、既に同問題の対策を含む301条報告書はUSTR内では完成しているという。現在、USTRは他省庁と協議中であり、ピーター・ナバロ通商製造政策局長によると数週間以内には発表する見込みだ(米CNBCテレビ、2018年3月15日放送)。なお、232条は中国以外の国も標的としていたため、米国の発動後、想定される中国の反発は限定的と見られている。だが、301条は中国のみを標的としており、中国は大幅な報復措置を発動することを専門家は予想している。

自国産業を保護する対策に寛容な大統領の姿勢を受け、2018年は長年利用されてこなかった通商法に基づく貿易救済措置の申し立てが他の業界でも追随し、ビジネスの不確実性を高める可能性も通商専門家の間では指摘されている。2018年11月開催の米中間選挙に向けて既に予備選が開始し、今後、議会で重要法案を可決することは見込まれない状況下、トランプ大統領は2016年大統領選でも効果を発揮した保護主義的な通商政策に軸足を移していく可能性が高い。

現政権下、ビジネスにとっての不確実性を更に高めているのが、通商に関わる大統領令や覚書だ。トランプ大統領が指示した調査の多くが既に期限を迎えているが、これら調査結果をもとに政権の権限で実行可能な貿易・投資政策の発動が懸念されている(表-2参照)。2018年3月、自由貿易推進派のゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長が政権の232条に基づく強硬策に反対して辞任し、政権の通商政策では対中強硬派で知られるナバロ通商製造政策局長の影響力が拡大している。コーン氏の後任として政権の経済顧問トップに就任したラリー・クドローNEC委員長は、自由貿易推進派であるものの、標的を絞った232条対策を支持し、中国の不公正貿易慣行については批判的だ。このような政権内の勢力図の変更、中間選挙を巡る政治、そしてトランプ政権の中枢にまで迫るロシアゲートをはじめとしたスキャンダルなどによって、2018年、トランプ政権は支持基盤を中心に多くの国民が支持する中国に対する米貿易救済措置を拡大していくことが大いに予想される。

表-2 トランプ政権発足後に発行された通商に関わる大統領令・覚書の現状と見通し

※クリックで拡大します

 

国ごとに異なるAD/CVD調査開始案件として算出する商務省の計算手法では2017年は79件。