フラッシュ377
2018年6月8日
 

疾走するOECD、デジタル化時代の国際協調
2018年閣僚理事会の概要と意義(後編)

 
安部 憲明
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
外務省 経済協力開発機構(OECD)日本政府代表部参事官

 

本稿の冒頭、OECDは、目下、グローバル・ガバナンスにおける「有用性」、各国政府への「影響力」、そして意思決定や国際基準の「正統性」を高めるために四輪で疾駆していると形容した。後編では、残りの2つの車輪、すなわち、OECDの加盟拡大と対外関係、そして、内部の組織改革に関する閣僚理事会の成果を説明したい。

3.新規加盟と対外関係の強化(国際ガバナンスにおける位置取り)

世界銀行や国際通貨基金が様々な形で新興国の代表性を高めてきたこととの対比で、「中国やインドが参画しない意思決定に何の意味があるのか」という問いは、「先進国クラブ」と揶揄されてきたOECDにとり辛辣かつ深刻だ。一方では自由化水準の高い国際協調の質を落とさず、もう一方で、いかに新興国の利害を取り込みつつ、その適用地域を広げていくか。この二律を追求するOECDの方針は、「質は落とさない。ミニ国連にはならない。普遍的ではないけれどもグローバルな政策ネットワークを目指すのだ」と明快だ。その自画像は、具体的には、①加盟国数は適正規模を保つ、②各種専門委員会の活動には、連携国(アソシエート)など「加盟国未満」のアドホックな資格で参加を開放する(注1)、③国毎や地域別の枠組を設けて協力する(図表1)という輪郭で描かれる。これは、OECDの制度的特徴である参加の開放性と義務の任意性に基づき、以下3つの柱で進められている。

第1の柱は、加盟拡大だ。閣僚理事会には、リトアニアとコロンビアの両大統領が来訪し、加盟文書に署名した。これで合計37か国がメンバーとなった(注2)。加盟審査とは、各種の専門委員会が、加盟申請国の適格を、各々の所掌する国際基準の加入・実施状況に照らして厳格に審査する手続だ。例えば、コロンビアは和平実現よりもOECD加盟の方が困難だった、と皮肉られるように、例えば、労働組合幹部の殺害など政治的・社会的権利の保障への重大な懸念からOECD雇用労働社会委員会の審査は最後まで難航を極めた。

2017年の閣僚理事会は、過去に繰り返された欧州と中南米の安易な「抱き合わせ」ではなく、候補国の力量に応じて秩序立てて加盟させるために、加盟審査に先立つ段階の判断として、ある国に対する審査手続を開始することの当否を決定するための判断枠組を定めた。賑やかにはなったけれども、軽くもなった自身の姿への反省からだ。そこで、OECD理事会は、各々の候補国が、民主主義や市場経済という同質的価値に基づく制度を有するか、OECDの各種基準への加入状況や専門委員会への参加実態、経済規模や生活水準などの基準を当てはめ、全会一致でその適格を判断することと決め、その上で、将来の適正規模を約50か国と見積もった。OECD理事会は、昨年時点で申請していた6か国(アルゼンチン、ブラジル、ペルー、ルーマニア、ブルガリア及びクロアチア)にこの枠組を当てはめ、1年間侃々諤々で議論したが、1年後の閣僚理事会までに結論には至らなかった。これらの6か国は待ちぼうけを食わされた形だ。けれども、メンバーとしてある国を迎え入れるか否かは、すぐれて戦略的な決断であり、二国間関係も加味すれば、全会一致が難しいことは当然である。確かに、ブラジルや本年G20議長国を務めるアルゼンチンが加盟すれば、OECDの周縁化への歯止めと正統性の向上に寄与するだろう。また、GDP第9位の経済大国であるブラジルが、OECD加盟をテコに、自由化と構造改革路線を経済成長パターンに内蔵させる意義は大きい。事実、加盟の早期実現に向けて国際基準への加入を急ぐブラジルの「君子豹変ぶり」は図表2に見て取れる。これが、加盟積極論者が頻繁に論拠として援用するOECD加盟の「改革促進効果」にほかならない。他方、拡大懐疑論者は、加盟する側にとっての意義よりも、これ以上、小さい国を加えることの意義を問う。また、OECDがブラジルを変えることが出来るというのは幻想であり、逆に、ブラジルがOECDを変質させるのが関の山だという。国連やWTOでブラジルの振る舞いに苦汁を嘗めた某加盟国大使の警告だけに重みがある。

対外ガバナンスの第2の柱は、非加盟国への関与だ。ここでは、中国やインドの「キー・パートナー」など様々な協力枠組(図表1)がある中で、特に、日本が重視する「東南アジア地域プログラム」を紹介したい。現在、東南アジアの加盟国はゼロだ。しかし、ASEANのいくつかの国は「中所得国の罠」に危うく足を掛けつつある。成長の配当は十分に行き渡らず、格差も深刻だ。高齢化が始まり、グローバル化やデジタル化の中で高い競争力を維持するのは容易ではない。現代版シルクロード経済圏構想の「一帯一路」を通じ、独自のルールや規格で近隣市場へ浸潤を図る中国の影もちらつく。ASEAN各国の構造改革と地域統合にOECDを活用しない手はない。OECDは、得意とする技術革新や人材育成を通じた生産性の向上、中小企業支援、「質の高いインフラ」の基準作りでASEANと協力を深め、加盟申請にもつなげたい考えだ。その橋渡しは日本の役割である。閣僚理事会に先立つ3月、河野太郎外務大臣は、2014年の創設以来初となる閣僚会合を主催した。こうした働きかけも奏功し、タイは「国別プログラム」の開始を、本年の閣僚理事会に間に合わせた。

国際ガバナンス面の最後の柱は、国連やG20など他の国際機関やフォーラムとの協力強化だ(注3)。これは、あたかも中堅企業が、経営ノウハウの習得、多くの顧客情報の取得、販路拡張や知名度の利用を目論んで、大企業との業務提携を図り、生き残りの活路を見出している経営判断に似ている。国連との協力では「持続可能な開発目標(SDGs)」の実施支援が喫緊の課題で、国連統計局へのOECDに蓄積されたデータ提供や統計手法を共有し、各国の目標到達状況の可視化(標語好きのグリア氏の言葉を借りれば、SDGsの目的地へ各国を導く「GPS機能」)する事業を進めている(注4)。これ以外にも、OECDが得意とする税務、コーポレート・ガバナンスや投資環境整備を筆頭に対象分野を拡充し、国連の「販売網」に乗せていく意欲は満々で、2019年にはOECDの国連事務所を常駐化する方針だ。また、最近、BEPS事業を筆頭にG20の成果物にOECDとの連名が多いのは、G20がOECDに事業を委託するほか、逆に、OECDの先駆的取組にあとから政治的な「お墨付き」を与える実態を示している。これは、<意思決定の効率性と業績の質の高さ>というOECDの利点と、中国など新興国とそれに列伍する参加国の大きさ・多さが生む<政治的正統性と普遍性>というG20の特長を相互に補う工夫の結晶である。ここでは、鉄鋼過剰生産能力問題の解決が焦眉の急だ(注5)。閣僚理事会は、OECDが常設の事務局を持たないG20 の「事実上の事務局」として、生産削減などの調整措置に係る政治的合意に必要なデータ分析・情報共有や、中国を含む主要生産国が参加する多国間会合の運営に汗をかいていることを評価した。また、鉄鋼だけでなく、アルミや造船の同種の問題の解決に向けても取り組む決意を新たにした。OECDは、最近「シンク(考える)タンク」に加えて「ドゥー(行動する)タンク」を標榜し始めたが、こうした喫緊の問題解決に貢献できるか否かにその真価が問われている。

4.組織運営(内なるガバナンス)の改善

OECDが「学習到達度調査(PISA)」などの業績で新聞紙面を飾る裏の台所で、足元の内部統治を改善するために多大な時間とエネルギーを費やしていることは、あまり知られていない。絶え間ない自己刷新は、OECDが国際機関間の「適者生存」時代を生き抜くために不可欠な第4の車輪である。

OECDは、2000年以降の加盟拡大と業務増大に歩調を合わせ、設立条約を改正しない範囲で、意思決定の迅速化を図るための全会一致原則の例外化や、監査や評価の強化、組織改編から手続細則の改訂など重ねてきた。2016年に、日本が主導して「将来の事務総長の任命手続」を策定したのは、ガバナンス改革の好例である(注6)。閣僚らは、第三者機関による外部評価を導入し、最高意思決定機関であるOECD理事会の決定をその評価対象に含めることを承認した。この決断は、メンバーの極めて高い同質性を前提に、案件の性質や折々の事情に応じて柔軟な問題処理を志向してきた「クラブ」的な組織風土において画期的である。ただし、加盟国の一部には、外部機関の能力への懐疑論、主権国家間の政治的取引を評定する権限を与えることへの反対論も根強く、実効ある仕組みにできるかが今後の課題だ。

おわりに

以上概説したとおり、国際協調を牽引するOECDを巡る課題は山積しており、挑戦はこれからも続く。本年の閣僚理事会では、創設以来一貫して、構造改革と経済自由化のための多国間協調を旗印にしてきたOECDと、マクロン大統領率いる議長国フランスの思惑と主張とは完全に共鳴し合っていた(注7)。両者は、現代の人権宣言よろしく「誰もが生まれながらにしてグローバルな存在である」と謳った上で、SDGsの取組に典型的に見られるように、日常の諸課題に取り組む上で、国内措置か国際的な調整か、政府か民間部門か、先進国か途上国かの区別は意義を失っている、今こそ経済・社会政策の一見異なる分野を総合するアプローチを鍛え上げ、多国間主義の質を高めるべしと訴えた。

ところが、今年の閣僚理事会では、数多くの肉厚の成果が霞んでしまうほどに、加盟国内の政治的な不協和音も露呈した。会議の2日目には、米国が鉄鋼やアルミに対する輸入制限措置を発表し、多国間主義に冷や水を浴びせかけた。欧州委員会等は、ただちに保護主義を非難する声明を発出し、閣僚理事会の袖で行われたWTO非公式会合や日米EU三極貿易大臣会合でも、米国の単独主義をそれ以外の国が相次いで憂慮した。フランスは、OECD閣僚理事会の議長国として共同文書を追求し努力を傾けたが、いくつかの主要事項に関する立場の違いは埋まらず、終幕にあたり、議長国の権限と責任でとりまとめた議長声明の冒頭で、「コンセンサス・マイナス・ワン」で以下の点に合意したと記し、米国に対する強烈な当てつけを表現した(注8)。欧州の戦後復興計画の実施機関を承継して創設されたOECDが、その本部の瀟洒な洋館に生みの親である米国務長官の名を取って「ジョージ・マーシャル・ビル」と名付けたことが、本年ほど、皮肉と危機感をもって受け止められた時もないだろう。

OECDは、国際ガバナンスにおける自身の存在意義をかけた戦略的岐路にある。デジタル化をはじめとした時代を先取りし、市場で起きる問題を実証主義に基づく政策対話と実行で解決する取組の成否は、単にOECDという国際機関への評価だけではなく、多国間主義や国際協調の消長を決しかねない。OECDは、これからも危機感を抱きながら四輪駆動で疾走し続けるしかない。

(本稿で述べられた意見や見解は全て筆者個人によるものであり、筆者が所属する組織の立場を一切示すものではない。)

1. これらの異なる参加資格は、関与の程度の高い順に、以下のとおりである。①「連携国(アソシエート)」は、当該委員会における主要な国際基準への加入、データベースへの情報提供及び会費負担の義務を負う代わりに、加盟等を除く意思決定にも参画できるなど正式メンバー同等の権利を与えられる。②「参与国(パーティシパント)」は、会費を支払い、秘密指定される会合を除くほかは2年毎の参加資格見直しの間は継続して委員会に参加することが出来、積極的に議論に貢献することが求められる。③「被招待国(インヴァイティー)」は、会費負担はなく決定にも拘束されない代わりに、議論には参加できるものの、議長等の役職には就けず、また意思決定には参加できない。
2. 1961年設立時の原加盟20か国(英国、フランス、ドイツ、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、オーストリア、デンマーク、ギリシャ、アイスランド、アイルランド、イタリア、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、米国、カナダ)に加え、2018年6月現在までに、日本(64年)、フィンランド(69年)、豪(71年)、ニュージーランド(73年)、メキシコ(94年)、チェコ(95年)、ハンガリー、ポーランド、韓国(いずれも96年)、スロバキア(2000年)、チリ、スロベニア、イスラエル、エストニア(いずれも10年)、ラトビア(16年)、リトアニア及びコロンビア(いずれも18年)が加盟した。コスタリカが審査中である。EUは、OECDの正式メンバーではないため、理事会での投票権を有さないが、議論に参加し、決議案の修正等を提案することが出来る。
3. 拙稿「多国間主義の再建と刷新に参画しよう―OECDと国連の協力強化で広がる好機」『国連ジャーナル』(日本国際連合協会、2018年)
4. 拙稿「OECDの「GPS」機能が導く世界は」『国際開発ジャーナル』734号(2018年)
5. G20杭州サミット首脳コミュニケ(抜粋)「31.(中略) G20構成国と関心あるOECD加盟国の積極的な参加を得つつOECDによって支援される鉄鋼の過剰生産能力に関するグローバル・フォーラムの設立を通じた情報共有と協力の促進を求める。我々は,2017年にG20の関連する閣僚に対してグローバル・フォーラムの取組に関する進捗報告が行われることを期待する。」
6. 同手続の策定経緯や内容等について、拙稿「経済協力開発機構(OECD)事務総長の任命手続―策定の経緯、概要と評価」『国際法研究』第6号(信山社、2018年)
7. 議長国フランスの采配ぶりについて、拙稿「もうひとつの『パリ会議』:2018年OECD閣僚理事会」世界経済評論Impact欄(2018年6月)http://www.world-economic-review.jp/impact/article1090.html
8. OECD閣僚理事会の議長声明「Statement of the Chair of MCM 2018」http://www.oecd.org/mcm/documents/Statement-French-Chair-OECD-MCM-2018.pdf