フラッシュ401
2018年9月28日
 

中古車から新車の時代を迎えたヤンゴンの新たなビジネスチャンス
ITIミャンマー研究会現地出張報告(7)

 
大木 博巳
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹

 

ヤンゴンのバスシステム改革

ヤンゴン市内の交通手段は、これまで中古の乗用車・バスが活躍して時代から真新しい新車の時代に移り変わろうとしている。

新車の時代にいち早く突入したのが公共交通バスである。2017年1月16日にヤンゴンの新しい公共交通網が始動した。ヤンゴン地方政府は、ヤンゴン管区交通管理局(YRTA)を設立し、YRTAは「ヤンゴン・バス・サービス」(YBS)と名付けた新サービスの導入に踏み切った。YBSは、官民連携(PPP)事業8社が運行会社となり、100~300チャット(約8~25円)の新料金で、運行時間も午後10時までに統一した(注1)。

ヤンゴンの公共バスは、大変評判が悪かった。ひどい混雑、不安定な運行ダイヤ、乱暴な運転など枚挙にいとまがなかった。

第1にどこに行くのかわからない。バスのフロントガラスを見てもどこに行くのか行き先が表示されていないバスがあった。バスの車掌に行き先を確認してから乗るのが常識であった。

第2は、料金がいくらかわからない。車掌によって値段が異なっていた。

第3は、いつ出発するかわからない。運転手も車掌も満員にならないと出発しなかった。バス事業者は、いわば個人営業のような形態で、出来るだけ多くの人を乗せて稼ごうとする意欲が強かった。

YBSの導入の目的は種々ある。無秩序に張り巡らされていた300近くあった運行路線を92(2018年1月現在)に削減して、定期運行による通勤利用者の通勤時間短縮を目指した。運転手の賃金を上げて、質の悪さが際立っていたサービスの向上に努めた。利用者の利便性も改善している。バスの停留所を整備し、行き先を表示した路線案内盤を停留所に配置した。ヤンゴン在住の日本人も、簡単にバスを利用できるようになった。

さらに、冷房が効いている快適に乗車できる新型バスを導入した。これまで頑張ってきた神奈川中央交通や江ノ電バスの右ハンドルの中古バスが、ヤンゴン市街から一掃されて、代わって中国製や韓国製の左ハンドルの真新しいバスが走り始めた。

 

 

青息吐息のヤンゴンの中古車販売店

交通手段の改革は乗用車にも及んでいる。ミャンマー車両輸入管理委員会は2017年10月16日、2018年以降輸入できる自動車について、通達(No.1/2017)を出した。日本から大量に輸入されていた右ハンドル車は重機のみに認められ、乗用車やバスなどは左ハンドル車に限定した。

ミャンマーでは車両は右側走行だが、2011年の中古車輸入規制の大幅緩和により右ハンドルの日本の中古車が大量に輸入された。これに伴い、特にヤンゴンなどの都市部で渋滞が深刻になり事故も増えたことから、政府は2017年から右ハンドル車の輸入を規制し始めた。2018年からは重機を除く自動車は左ハンドルに限られ、事実上、右ハンドル車の輸入できなくなった。

ヤンゴン市内の日本の中古車販売店は、かつての繁盛ぶりが嘘のようで、閑散としている。往時の勢いは全くない。カーバーアエーパゴダ通りに面している中古車販売店を覗いたが、客は誰もおらず、広い敷地の中で中古小型車が20台程、まばらに並んでいた。見た目はきれいにお化粧しているが、2011~12年製造の車で、ヤンゴンでは売れ筋の人気車種であるとのことであった。値段はスズキ自動車の現地組み立ての新車エルティガと同等であった。ヤンゴンの中古車販売店は青息吐息、ミャワディの活況ぶりと対照的である。

 

 

日本の対ミャンマー自動車輸出の衰退

バスシステムの改革、右ハンドル自動車の輸入禁止は、日本の対ミュンマー自動車輸出の落ち込みぶりで確認できる。

日本の対ミャンマー自動車輸出は、中古が大半を占めている。乗用車では2012年の6.4億ドル超から2017年には3分の1に激減している(図1)。中古バスの輸出は、2500万ドルから1300万ドルに減っている(図2)。また、中古トラック(貨物自動車)も2013年をピークに減り始めている。

 

図1

 

図2

 

図3

 

日本の対ミャンマー自動車輸出の減少は、ミャンマーに新しい時代が到来していることを象徴している。新たなビジネスチャンスが生まれているからである。

例えば、バスの輸入では、日本の中古バスに代わって中国製の新車が勢いよく伸びている。中国の対ミャンマー・バス輸出は、2011年から伸びはじめ、2017年に1.36億ドルと2016年の6200万ドルから一挙に倍増した(図4)。これは、ヤンゴンのバス改革に連動した動きである。YRTAが実施したバスの入札で勝ち残ったのは中国企業である。入札価格は、日本勢が1台15万ドル程度に対し、中国勢は1台5万ドルで落札したという。

トラックもバスと同じような動きを見せている。日本の中古の対ミャンマー・トラック輸出は中古がほとんどで、2013年をピークに減少傾向にある。一方、中国の新車トラックの輸出は、年によって乱高下しているが、2017年では、日本の中古トラック輸出額とほぼ同じ規模で並んでいる。

 

図4

 

図5

出所:各国貿易統計よりITI作成

 

新たなビジネスチャンスの到来

ヤンゴンでは中古車の時代が終わり、新車の時代を迎えている。新車を購入できるほどに購買力が高まっている証左であろう。

こうした時代の変化で、ヤンゴンの自動車市場では、新たなビジネスチャンスをもたらしている。新たな勝者が誕生している。その勝者は、バスでは中国企業である。乗用車では、今のところ、緒戦では、日本のスズキ自動車に勢いがある。

中古の日本車販売店が勢いを失っている一方で、ヤンゴン市内のスズキ自動車販売店は活況を呈している。ミンガラドン工業団地方面の通りに面したスズキ自動車の販売店を覗いた。訪問した日が丁度、休日であったことも手伝って、商談が進んでいた。この販売店全店でその日に10台以上の成約があったとのことであった。

スズキ自動車は、2012年にトップダウン(「鶴の一声」)でティワラSEZに20万㎡の土地を確保した。2018年1月に月産60台で操業開始したが、売上好調で現在バックオーダー数ヵ月待ち状態である。生産している車種は、セミノックダウン(SKD)で軽トラックのCarry、ミニSUVのEltiga、セダンのCiazと3モデルである。

  1. 軽トラックのCarry、970cc、937万チャット。
  2. ミニSUVのEltiga、1400cc、2680万チャット。
  3. セダンのCiaz、1400cc、2850万チャット。

いずれもティラワSEZでセミノックダウン(SKD)で組み立てられている新車である。売れ筋は、③のCiazが一番売れているとのことであった。

自動車ローンも利用できるようになった。5年ローンで購入すると頭金25%、月々30万チャット、年利13%。小売価格の内訳は、SKDの車体価格に対して税金15%、3年間の物品税、運輸省への登録料が20万チャットの費用が掛かる。

 

 

 

決め手はBOPビジネスの4条件

ミャンマーでは、公共バス改革や右ハンドル車の輸入禁止のような新しい時代を切り開くような改革や規制緩和が、今後ともありとあらゆる分野で起こるとことになろう。こうした改革や規制緩和により、新たなビジネスチャンスが到来する。ビジネスチャンスを狙って、日本企業、韓国企業、中国企業、欧米企業を巻き込んだミャンマー新市場の獲得競争が、今、ようやく始まったばかりである。

今回、公共バスの改革で中国企業が勝者となった。要因は割安な価格である。しかし、中国製バスが今後と勝者になり続ける保証はない。かつて、バングラデシュでも同じようなことが起きた。日本の中小企業がダッカにある国営バス企業(BRTC:Bangladesh Road Transport Corporation バングラデシュ道路交通公社)の運賃徴収業務を改善して、運賃収入を飛躍的に拡大させた。運賃収入が安定的に確保することができたことで、バングラデシュ政府はBRTCに新型バスの購入(2011年、1000台)を許可した。入札結果は、中国、インド、韓国が落札、望んでいた日本製バスは高すぎて手が届かなった。

導入当初、中国製バスは、冷房が効いて快適という評判であったが、ヤンゴンのバスよりひどい中古のバスと比べればすべてが快適となる。しかし、最近の報道によれば、中国製バスは、導入してから2~3年で不具合が生じていた。最近8年間で、BRTCは945台のバスを廃車にしたが、275台が中国製バスであったという。中国製バスの導入、当初より、バスの品質について疑問が出されていたが、限られた予算の中で、最大限の効果を期待するには、質よりは量、価格が重視された。

バングラデシュやミャンマーのような市場を開拓するには、消費者の懐状況を考え、購入できる価格設定をして、どこでも購入できるような条件、低所得層向けのビジネスであBOPビジネスの4条件(アクセス(Access) 価格(Affordability)、入手のしやすさ(Availability)、認知=ブランド力(Awareness))が決め手となる。ヤンゴンのような中間層が台頭しているフロンティア市場では、特に、価格と入手のしやすが競争要因となろう。とりわけ、現地生産による供給体制の整備が必須ではないだろうか。

 

1. 産経BIZ「ミャンマー、ヤンゴンで公共バス改革 路線数60に削減、サービス改善」https://www.sankeibiz.jp/macro/news/170126/mcb1701260500009-n1.htm