フラッシュ414
2019年1月21日
 

2019年の欧州展望:英EU離脱の衝撃で、政治・経済は一段と混迷化
-ポピュリズムの浸透、欧州分裂のリスクが強まる

 
田中 友義
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

 

2019年は欧州にとって、「ベルリンの壁」崩壊から30年、EU単一通貨「ユーロ」創設から20年という節目の年にあたる。この1年を展望すると、欧州レベルや各国レベルで様々なリスクが一気に噴出する予兆がある。換言すれば、欧州政治・経済の先行きは不透明となり、混迷する情勢下で、ポピュリズム(大衆迎合主義)への傾斜が強まるだろう。様々なレベルでの対立が激化し、欧州は分裂の危機に瀕して大きく揺れ動くことになる。最大の危機は本年3月末に迫る英国のEU離脱(ブレグジット)である。もし「合意なき離脱」に至れば(英議会が政府提出の離脱協定案を大差の反対で葬り去ったため、テレーザ・メイ首相は窮地に追い込まれるなど、そのリスクが急速に高まっている)、英国発の世界景気の後退や経済危機が起きる懸念は尽きない。EUの要であったドイツのアンゲラ・メルケル首相が与党党首を退任し、急速に求心力を失っている。フランスでは反マクロン政権デモが依然終息せず、エマニュエル・マクロン大統領の政治的基盤が掘り崩されようとしている。独・仏・英の主要3カ国首脳そろって窮地に追い込まれるという異常事態で、リーダー不在で、EU改革も停滞するだろう。欧州が結束力を弱め、分裂リスクを強める苛酷な1年となる。

英国:迫るEU離脱、深刻な分裂で合意政治が漂流

2019年3月29日の英国のEU離脱期限が迫る中、メイ首相がEU側と昨年11月に合意した離脱協定案が、本年1月15日、英議会で賛成202票、反対432票で否決され、英政権は歴史的な敗北を喫した。最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は内閣不信任案を突き付けた。これは翌16日の議会で否決され、メイ氏の続投となったものの、同氏の主導力は一気に落ちてしまった。今後、議会側と協議を続け、1月21日までに代替案(プランB)を示し、1月29日に議会で採決することになっている。しかしながら、コービン氏は「政府が『合意なき離脱』の可能性を除外しなければならない」として、政権との協議に応じようとしていない現状では、議会との妥協点を見出すのは難しく、3月29日の離脱期日の延期も止むを得ないと、マクロン大統領やペーター・アルトマイヤー独経済相などのEU首脳や有力閣僚らが声を上げる。

議会が採りうる選択肢としては、①代替案を採択する、②合意なしで3月29日に離脱する、③離脱延期を前提に、新たな離脱案について、EUとの再交渉を政府に求める、④2度目の国民投票の実施を決めることの4つが挙げられる(注1)。現時点では、メイ氏は協定案の微修正で乗り切りたいと考えているところから、議会との隔たりは大きい。29日の採決でも再度否決されれば事態は一段と不透明になり、市民生活や企業の経済活動に大きな混乱を招きかねない「合意なき離脱」の可能性が高まるし、メイ氏もその可能性を排除していない。また、「合意なき離脱」以外は、EUとの合意が必要になる。現時点では、先に合意した離脱協定案の修正に応じない立場を変えていないので、再協議は難航が必至である。

英国政府は「合意なき離脱」の最悪のシナリオとして、①英国のGDP(国内総生産)は今後、8.0%~10.7%落ち込む、②英国の貿易は13%~18%減少(輸出10%~13%減少、輸入16%~21%減少)する、③対EU貿易は32%~42%減少(対EU輸出30%~40%減少、対EU輸入34%~43%減少)する、1970年代の石油危機や2008年のリーマン・ショックを上回る影響が出ると予測している(注2)。

2016年6月の国民投票で英国民がEUからの離脱を決めてから、英国社会の分裂は深刻な状況下にあって、英国の得意とする合意政治が機能せず、ますます混迷状態にある。3月29日の離脱日まで、厳しいながらも「秩序ある離脱」になるのか、あるいは国民生活や経済活動に大きな混乱を引き起こす「合意なき離脱」になるのか、英国は1973年のEU加盟後最大の歴史的選択を迫られる過酷な1年となる。

フランス:「黄色いベスト」運動先鋭化、内政改革は停滞

政治不信と国民の怒りを制御できなくなったのがフランスである。昨年11月以降フランス全土へ広がった反政府デモ「黄色いベスト」運動が激化する中、自らが進めてきた構造改革の見直し(段階的な撤退)を余儀なくされ、マクロン大統領の改革派のイメージはすっかり傷ついてしまった。リベラル・改革派の急先鋒マクロン氏の権威は、政権を大きく揺さぶる反政府デモによって深刻な打撃を受けた。大統領就任後から、果敢に断行してきた成長重視・親企業的な改革推進力が2019年には大きく失墜することになるだろう。燃料費税引き上げの先送りや最低賃金の引き上げなどに要する政府の歳出増や税収減によって、フランス政府は2019年予算の財政赤字をEUルールのGDP比3%以内に抑える計画が3.2%に膨らむと見込まれる。フランスの内政改革の停滞は、ユーロ圏共通予算などマクロン氏が唱えてきたEU改革への対外的な説得力を弱らせるだろう。

2018年末現在の支持率は就任時の60%台から20%台と記録的な下降を示している。本年1月初めに公表された世論調査によると、国民の4分の3がマクロン氏の政策運営に不満を持っている。また、半数以上が家計所得を増やすための一段の対策を最重要視していると答えている。マクロン氏の政策や行動に満足にているとの回答は25%にとどまった。不満を表明したのは75%であった。「黄色いベスト」運動について、継続すべきとの回答は55%と運動の発生直後の昨年11月時点の66%から減少した(注3)。

「金持ち優先の大統領」というレッテルを張られたマクロン氏の「エリート主義政治」に抗うというより、今やマクロン流の政治統治を嫌悪する大衆の反政権デモは、クリスマス休暇にかけて一時勢いを弱めたかに見えたが、年が明けて、再び勢いを取り戻した。急遽発表した一連の低所得層支援策によって、収束に向かうかどうかきわめて不透明である。マクロン氏が反政権運動の鎮静化に手間取るようだと、盤石だとみられていた政権基盤が大きく揺らぎ、政治危機が一気に高まる。そして、本年5月の欧州議会選挙での極右・極左のポピュリズム政党の躍進を許すことになれば、2022年のマクロン氏の大統領再選に黄信号がともる。

ドイツ:メルケル流政治に逆風、求心力低下が進む

欧州の要として長く主導的地位にあったドイツのメルケル首相も、自らの難民・移民路線を否定されたうえ、地方選での連敗の責任をとり、18年間務めてきた与党キリスト教民主同盟(CDU)党首の座を明け渡したことから、求心力の低下は避けられない。メルケル氏の後継党首に選ばれたのはリベラル派のアンネグレート・クランプ=カレンバウアーCDU幹事長である。新党首はメルケル氏と近い立場にあり、メルケル氏による中道路線が継続されることになる。

しかしながら、昨年12月の党首選で反メルケル・保守派のフリードリヒ・メルツ元連邦議会院内総務に対して僅差での勝利となっただけに、メルケル・クランプ=カレンバウアー2トップによる体制で、党首選で表面化した党内の対立を緩和して結束を固め、党勢を回復し、政権を立て直せるかどうか不透明である。メルケル氏が2021年に政界を引退することを表明したことによって、同氏の「レームダック化」(死に体)が進み、2019年のドイツ政治は世代交代期に入り、「ポスト・メルケル時代」へと移る。

メルケル氏に逆風が吹くきっかけとなったのは、2015年9月の難民危機である。同氏は「人道的な危機」と捉えて、大幅な難民受け入れを決断したが、ドイツ国内で批判が高まり、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の台頭を許した。政権が迷走する中、2018年10月のバイエルン州とヘッセン州議会選挙での連敗をきっかけに党首退任に追い込まれた。首相・党首の権力分散、与党CDU内の半数に近い反メルケル派の存在、バイエルン州姉妹政党・キリスト教社会同盟(CSU)ホルスト・ゼーホーファー党首(当時)との難民政策を巡る確執、連立相手の中道左派の社会民主党(SPD)側からの「メルケル流政治」に対する批判など、さまざまな問題を抱え、安定的な政治運営は極めて難しい。

そして何よりも、メルケル氏の求心力の後退はEU統合の推進力を鈍らせる。マクロン氏の大胆なEU改革案にもドイツ政権の慎重さが目立つようになっている。今、ドイツ側からの積極的なマクロン改革支持は望むべくもない。

イタリア:ポピュリスト政権、高支持率でEU造反に動く

2018年6月にポピュリスト政党の極右「同盟」と左派「五つ星運動」の連立政権が誕生したイタリアは、バラ撒き色の強い2019年予算案を公表、欧州委員会に提出した。予算案は選挙公約である最低所得保障などを盛り込み、EU財政ルールの財政赤字のGDP比2.4%とするとしたものである。ただし、前政権がGDP比0.8%に抑えることでEUと合意していたことから、欧州委員会は修正を求めて、イタリア政府はEUと対立を続けた。最終的にイタリア政府は予算修正に応じ、赤字目標を当初の2.4%から2.04%に引き下げたので、制裁手続き開始は見送られたが、両者のしこりが残っている。マクロン大統領が反政権デモの鎮静化のためにEU財政ルールに違反する可能性が高まる中、欧州委員会の強硬姿勢に変化も見える。ポピュリスト政権の目玉政策の年金受給開始年齢の引き下げや最低所得保障(ベーシンクインカム)など、バラマキ色強い政策の大枠は維持した。

イタリアではポピュリスト政権の支持率が約60%と依然として高い。欧州委員会が、フランス政権の状況を「イタリアとは全く違う」と擁護し、イタリアにだけ厳しい態度を示せば、移民難民の受け入れに強く反対するなど「反EU」を掲げて支持を集めるイタリアのポピュリスト勢力を本年5月の欧州議会選挙に向けてむしろ勢いづかせかねない。与党の「同盟」党首サルビー二副首相は「フランス人にとってマクロン氏は悩みの種である」と発言し、フランスの反政権デモを好機にマクロン氏批判を展開している。マクロン氏のEU改革にもきわめて批判的である。

欧州議会選挙:ポピュリスト政党、他国との連携を強化し、躍進を目指す

英国のEU離脱のわずか2カ月後の5月23日から26日には欧州議会選挙が実施される。主流派政党と、極右・極左の移民排斥・EU懐疑派政党との間で衝突が起きるだろう。極右・極左政党の議席が大きく増えて、ポピュリズム勢力がさらに勢いづく一方、中道右派・左派を中心とする二大政党制が崩れる可能性が強い。イタリアの極右政党「同盟」党首でもあるサルビー二副首相は、「反移民」などの主張で共鳴するフランスの極右政党「国民連合」(旧国民戦線)やドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」など他のEU加盟国の右派ポピュリスト政党勢力との連携する動きを強める。フランスの極右政党「国民連合」のマリーヌ・ルペン党首は1月13日、同党の会合で候補者を発表するなど、欧州議会選挙に向けて活発に動き出した。昨年12月の世論調査では国民連合に投票すると答えた人は24%とマクロン大統領率いる与党「共和国前進」の18%を上回っている。

EUの価値観を揺るがすハンガリーやポーランドの強権的な政権も欧州議会選挙に向けて、EUに懐疑的なイタリア与党の「同盟」やフランスの極右・国民連合など他の加盟国との連携を模索する動きが強まる。2015年から深刻化する移民・難民問題は、EU加盟国の内政を揺るがしている。ベルギーでは、移民問題を巡る路線対立で連立政権が崩壊した。移民保護に関する国連協定に賛同した仏語系自由党(MR)出身のシャルル・ミッシェル首相に反発し、右派・与党第一党・新フランドル同盟(N-VA)が連立政権から離脱したためである。欧州委員会は国連協定の採択を推進してきたが、ポーランドやハンガリー、イタリア、オーストリアなどポピュリスト政権は次々と不参加を表明、EUの結束が揺らいでいる。欧州議会選挙で、ポピュリスト政党が既成中道右派・左派政党と対峙して支持拡大に挑戦する。もし、ポピュリスト政党が大幅な議席を獲得することになれば、欧州の今後の行方に大きな変化が生まれてくる。

EU:リーダー不在、ユーロ圏改革が後退するリスク高まる

2019年1月から6カ月間、輪番制のEU議長国を初めてルーマニアが担う。同国は汚職が深刻で、EUの特別な監視下で改革を進めてきたが、現在の社会民主党政権は汚職問題の取り組みに消極的で、欧州委員会は2018年11月、「改革が後戻りしている」と警告を発している。ルーマニアが議長国として、切迫している英国のEU離脱問題に調整力をどこまで発揮できるのか不安視されている。法の支配や市民社会の寛容さを重んじるEUの価値観に反するハンガリー、ポーランド、オーストリア、イタリアなどの政権が反EU・EU懐疑主義的な動きに出ている事態になっている。さらに、今秋にはドナルド・トゥスク欧州理事会議長(EU大統領)、ジャン=クロード・ユンケル欧州委員会委員長、マリオ・ドラギ欧州中央銀行総裁などの首脳らの交代時期が重なるのも、ユーロ圏改革が後退する懸念を高めている。

そうした時期に、牽引役となるはずの独仏のリーダーがともに政治的苦境に陥っているのは痛手である。EUが抱える懸案よりも、国内対策に傾注せざるを得ない状況である。メルケル・マクロン両首脳の政治力が弱まり、加盟各国の利害を調整して決断を下すのは困難になる。マクロン氏が提唱してきた「ユーロ圏予算」や「共通財務相」の創設などEU改革もリーダー不在で前に進まずに漂流する。しかも、最近になって、EU改革を主導する独仏の結束も揺らいでいる。英国のEU離脱を前に、マクロン氏が提唱するEU改革に対して、ドイツ側は「まずは、国内改革にしっかりと取り組んで、足元を固めてはどうか」と冷ややかな目を向ける。明らかに、ドイツ政権の安定が揺らいでいるためである。

ブリュッセル欧州委員会筋では「2019年は、ブレグジット、メルケル退任、反政権運動の高まりやポピュリズムの台頭などの重要な課題に直面するきわめて重要な年になるだろう」と身構える。ユーロ誕生20年の節目の年に、EUの存在意義に疑念を抱く動きが一段と強まるだろう。

 

注・参考資料:
1)英下院EU離脱委員会が本年1月16日に提出した報告書による。
2)英国政府が2018年11月に発表した経済予測による。HM Government, EU Exit-Long-term economic analysis (November2018,Cm9742)
3)Reuters(2019/01/03)