フラッシュ429
2019年6月15日
 

多党化がすすむ欧州議会 反EU勢力は限定的

 
新井 俊三
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

 

2019年5月23日から26日まで5年1度の欧州議会選挙が実施された。多くのEU加盟国の投票日は日曜日であるが、英国のように投票日が木曜日と定められた国もあり、日曜以外の投票日の国もあったため4日間で実施された。

議員定数は、英国のEU離脱を前提に新しい定数が決められていたが、まだEUに残留しているため従来どおり751名である。原則としてEU各国の人口比に応じて加盟国に人数が割り当てられているが、小国については配分が多くなっている。ドイツ96、フランス79、イタリアおよび英国73、・・エストニア、キプロス、ルクセンブルグおよびマルタ6などと定められている。選挙は比例代表制で行われ、5%を超えない範囲での最低得票率の設定も可能である。選挙民にとっては、EUはまだ遠い存在であるため、選挙への関心はそれほど高くなく、投票率が比較的低い。また、投票は政策で判断するよりもそれぞれの国の現政権への批判的な意味合いもあるといわれている。当選した議員たちは、国を越えて政策を同じくする政党が会派(グループ)を作り、活動することとなる。例えば中道右派会派とか社会民主主義会派などである。

今回の選挙で注目されていたのは、各国で勢力を拡大しつつある右派・極右政党がどの程度の議席を占めるのかということと、選挙結果がこの秋交代が予定されている欧州委員会委員長、欧州中央銀行総裁などの選出にどう影響を与えるかということであった。

中道政党の退潮、緑の党が躍進

選挙結果は表1のとおりである。前回選挙があった2014年以降、EU各国では難民の大量流入、イスラムのテロなどにより右派・極右政党が勢力を伸ばし、また中道政党の退潮が目立つとともに、多党化も進んだ。この傾向は今回の欧州議会選挙にも表れている。

 

表1 欧州議会選挙、会派(グループ)別結果

 

国政レベルでの大きな変化が欧州議会の結果にも影響を与えていることもある。フランス大統領選挙の第1回目の投票では、ルペン党首の「国民戦線」(その後「国民連合」と名称を変更)は従来と同様の強さを発揮したが、中道政党であった共和党、社会党は多くの票をマクロン現大統領の「共和国前進」に奪われた。欧州議会選挙でも同様の結果であった。国民連合が23.31%で、22議席、共和国前進は22.41%、21議席であったのに対し、共和党8.48%、8議席、社会党にいたっては6.19%、6議席を獲得したにすぎない。中道政党退潮の一例である。

EU離脱に揺れる英国でも異例の結果となった。離脱を主張するブレグジット党が30.74%、29議席で第1党となり、それに続いたのは離脱反対の自由民主党で19.75%、16議席を獲得した。ブレグジット党は、2014年の欧州議会選挙では党首が同じということから英国独立党とも考えられ、同党は27.49%、24議席を獲得しており、その時には労働党が25.40%、20議席、保守党が23.93%でやはり20議席を獲得している。ところが今回の選挙では労働党13.72%、10議席、保守党は8.84%、4議席であった。

予想外に躍進したのが緑の党であり、ドイツなどでは若者の多くが緑の党に投票したという分析もある。最近のドイツの世論調査では、政党支持率で緑の党がキリスト教民主・社会同盟を抜いて1位となっている。

主要国および注目される国の会派(グループ)別の獲得議席数をみたのが表2である。

イタリアの「同盟」のサルビニ党首は反EU勢力の結集を図っているが、「同盟」はフランスの「国民連合」とともに「国家と自由の欧州グループ」に所属し、ほかにオーストリアの極右政党、自由党がこれに加わっている。この会派以外に反EUあるいはEU懐疑派とみられるのは「自由と直接民主主義の欧州グループ」に属する独「ドイツのための選択肢」、伊「五つ星運動」、英ブレグジット党で、この2会派の合計で112議席となり、約15%を占めることなる。

サルビニ党首は反EU勢力を結集するため、さらに、司法制度等を巡り欧州委員会と対立している26議席を持つポーランドの「法と正義」、13議席のハンガリー、「フィデス」を勧誘しているが、フィデスは欧州人民党グループに留まりたい意向だし、親ロシアのサルビニ党首に対し、反ロシアの「法と正義」が行動を共にすることはないといわれている。懸念されていた反EU勢力による議会運営の困難さという事態は避けられそうである。

 

表2 会派別国別獲得議席数

 

国政に与えた影響

欧州議会選挙結果が国政にも大きな影響を及ぼしている。

ギリシャでは与党の急進左派連合(シリサ)が野党の新民主主義党に第1党の座を譲ったため、総選挙が実施されることとなった。ドイツでは、連立与党の社会民主党が議席を減らし、緑の党にも抜かれて第3党となったため、責任を取ってナーレス党首が辞任を発表した。

イタリアでは、ほぼ勢力が拮抗していた左右ポピュリズム連立政権であったが、右派の「同盟」が第一党となり、「五つ星運動」は野党の民主党に抜かれて第3党となったため、「同盟」のサルビニ党首兼副首相の発言力が強まっている。イタリアは財政赤字を巡り、欧州委員会との対立関係にあるが、サルビニ党首は強硬派であるため、財政赤字の拡大、イタリアに債務危機の発生の恐れも出ている。

欧州議会選選挙とは直接の関係はないが、オーストリアでも総選挙が実施されることとなった。発端は、連立を組む自由党のシュトラッへ副首相が、ロシアの実業家と献金と引き換えに公共事業を発注するとの秘密交渉を行っていた場面がビデオに撮られ、それが公表されてしまったことによる。シュトラッヘ副首相は辞任、さらに自由党の閣僚全員が辞任したため連立政権が崩壊し、総選挙となった。このビデオが公開されたのは欧州議会選挙の前であったため、あるいはオーストリアをこえて、各国の右派の伸張に歯止めがかかった可能性もあろう。

主要ポストを巡る争いが始まる

今年の秋には、ユンカー欧州委員会委員長が退任、それに伴いその他の人事も交代が予想される。また、ちょうど同じ時期に8年の任期を終えて欧州中央銀行総裁も交代する。

欧州委員会委員長は、欧州議会選挙の結果を考慮しつつ、欧州理事会(EU首脳会議)が候補者を提案し、欧州議会が承認するということになっているが、プロセスは複雑である。

ユンカー委員長が選出された経緯は、2014年に行われた欧州議会選挙で同氏が欧州人民党グループの筆頭候補者(ドイツ語のSpitzenkandidatという言葉を使っている。)として選挙戦を戦い、人民党グループが第1党となり、第2党となった社会民主主義同盟もユンカー氏の委員長就任を支持したため、最終的にはユンカー氏が委員長となったことである。この時は両グループ合わせて過半数を制しており、またユンカー氏がルクセンブルグの首相兼財務相の経験もあり、ユーロ・グループの代表も務めていたという経歴も評価された。

今回の選挙でも各会派(グループ)は筆頭候補者を立て、選挙戦を戦った。欧州人民党グループはドイツ人であるウェーバー欧州議会議員、社会民主進歩同盟はティンメルマンス欧州委員などであるが、欧州自由民主同盟は一人に絞らず複数の候補を挙げており、そのうちの一人がデンマーク出身のべステアー欧州委員であった。

前回同様の選出方法をとればウェーバー議員が有力であるが、反対も多く、その急先鋒はマクロン仏大統領である。マクロン大統領はこの筆頭候補者からの選出方法に批判的であるばかりでなく、ウェーバー議員の知名度の低さ、閣僚にもなったこともない政治経験の浅さを問題視している。また、社会民主進歩同盟と自身の欧州自由同盟とが協力し、中道右派の欧州人民グループから委員長の座を奪うことも目標としているといわれる。

一方従来の選出方法を尊重し、ウェーバー議員の委員長就任を支持しているのはメルケル独首相である。メルケル首相としてはウェーバー議員が欧州委員長に就任できなければ、そのかわり、ワイトマン独連邦銀行総裁の欧州中央銀行総裁のポストを要求する意向である。ただし、タカ派であるワイトマン氏の就任には反対の意見も多い。

現在の予定では6月中の決着をめざし、欧州委員会委員長および他の重要なポストである欧州理事会常任議長(EU大統領)、外交安全保障上級代表ならびに欧州中央銀行総裁のポストが決定されることとなっている。