フラッシュ438
2019年10月25日
 

ITIタイ研究会報告(3)
「国境貿易、鉄の女」が語るゴールデントライアングル・ルート
~少数民族の管理に乗り出す中国~

 
藤村 学
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
青山学院大学 教授

 

チェンライ県商工会議所メーサイ代表者、Ms. Pakaimas Vierraは、バンコクポスト紙(2018年10月15日付)で “Iron Lady of Border Trade” と紹介された。メコン川を航行する観光船と貨物船を所有し、メーサイ郊外でホテルを経営する等やり手スーパー・ビジネス・ウーマン。タイ、ミャンマー、ラオス、中国の4か国の利害関係者が合法・非合法の複雑な関係を織りなす危険な環境下でしぶとく、賢く、ビジネスを貫く、まさに「国境貿易、鉄の女」。1時間の予定のインタビューが、たっぷり3時間となり、そのうちの2時間ほどは女史によるパワフル独演会となった。「国境貿易、鉄の女」が雄弁に語るゴールデントライアングル・ルートを藤村教授に解説していただいた。(聞き手はITI事務局長 大木博巳)

 

Q.チェンライ県には国際国境ポイントが3か所あります。サイ川沿いのメーサイ、メコン川沿いのチェンセン、チェンコンです。タイでは3つの国境ポイントを持つ県は、唯一、チェンライ県だけです。

- メーサイ国境は貿易・金融拠点、チェンセンは港湾都市、チェンコンは物流拠点という展望があるということでした。チェンライ県の3国境からの輸出額は年間数百億バーツ規模に達するが、中国側の輸入統計に出てくる(関税をとっている)のはその2割程度。残りは非公式貿易によるものと推測していました。

 

Q. まず、メーサイ経由のタイとミャンマーの貿易ルートについて伺います。

- タイの最北端に位置するメーサイは、サイ川を挟んで川向うのミャンマー側シャン州のタチレイの街と陸路貿易がつながっています。

貿易ルートは古くからある第1メーサイ橋と2006年にアジア開発銀行(ADB)の支援で開通した第2メーサイ橋に分かれます。第1メーサイ橋からの輸出貨物は日用品中心の小型トラックに限られ、1日平均450台程度が通過するということです。第2メーサイ橋からは大型貨物が輸出されます。タチレイ側では第1メーサイ橋ではシャン州政府に一律3%の州財が課されるとのことです。第2メーサイ橋での関税はネピドーの中央政府向けに納められます。どちらの橋も、ミャンマー国軍(通称「タマドーTatmadaw」)が治安を維持しています。

 

Q.このルートの貿易については、メーサイ税関の幹部からより詳細な情報を聞くことができました。

- 突然の訪問でしたが、第2メーサイ橋にある税関事務所の幹部の方が、快くインタビューを受けてくれました。メーサイ=タチレイ国境は南北経済回廊のミャンマールートをつなげる結節点です。しかし、ミャンマー側のチャイントンから中国国境のマインラーまでがシャン州の少数民族武装勢力の管轄下にあるため、ミャンマー政府との紛争があるたびに治安が悪化するので、安定した物流がこのルートでは難しいとのことです。

メーサイ税関を通る主要輸出品目はガソリン、建設資材、日用品など。そのうちガソリンが過半だそうです。これらメーサイ税関を通る輸出品の流通先はタチレイ、中国方面への途中のチャイントン、ネピドー方面への途中のタウンヂーの3都市圏にほぼ限られるとのことです。

ミャンマーのシャン州内の地方道路インフラがまだ劣悪なせいだと思います。また、ミャンマー側の施設・技術不足により、トレーラーによる輸送は禁止されているそうです。第2メーサイ橋を通れるのはガソリンや建設資材の重量バルク貨物を運ぶ10車輪以上の大型トラックのみで、その他の貨物は第2メーサイ橋でCIQを受けたうえで、第1メーサイ橋(狭い)を通れる小型トラックに積み替えられて第1メーサイ橋を通って輸出されます。

メーサイ税関でのミャンマーからの主要輸入品目はマンガン(主な用途は粗鋼生産時の強度向上剤?)などの原材料に加え、果物、お茶、ニンニクなどの農産物が中心です。これら農産品の多くはチェンコン港から内陸水運もしくはレムチャバン港経由の海運で中国へ再輸出されるということです。

 

Q.メコン川の水運物流は?

- 下流から順番にチェンセン→ゴールデントライアングル→Wan Pong→Sop Loi(ワ州連合軍(UWSA)が支配とのこと)→関累Guanlei→景洪Jinghong。全275kmを、チェンセン港を朝6時に出発して景洪に翌日の朝5~6時に着くのでちょうど24時間ほどです。

Wan Pong港へ陸揚げされるのはラオス産のバナナが多いというので、その後、陸路で中国へ向かうのでしょう。チェンセン港やゴールデントライアングル周辺でラオスとミャンマー当局の治安維持に必要なパトロールボートは中国の寄附によるものが多いそうです。

メコン川の水位が低いとき、Sop Loi港あたりで立ち往生する中国船から貨物積み替えの助けを求められることがあるということでした。

タイから中国への直接(ミャンマー経由の非公式ルートではなく)の輸出貨物は雲南省関累港のCIQ 事務所(CはCustomsではなく、Chinaを表し、China Inspection and Quarantine)で検査を受けるそうです。

 

 

Q. ミャンマーのシャン州の武力勢力、ワ州連合軍(UWSA)が、メコン川の河川貿易において大きな力をもっているとのことでした。

- チェンライ県から中国へ向けて河川貿易を行う場合、ミャンマー・シャン州でUWSAが支配する(女史によれば東シャン州軍NDAAという別の武装勢力から支配権が移ったとのこと)Sop Loi港で陸揚げし、そこから陸路でUsai Lim 240というローカル国境から中国へ入るルートが非公式に確立しているという話です。別の情報ではこの国境はミャンマーからの生牛の輸入拠点の1つでもあると聞きます。中国政府の公式立場はこのルートで入る輸入品は違法であり、輸送中に事故があっても責任をとらない、と関係者に警告しているとのことです。

Q. 中国は牛肉資源を探し回っているといっていました。

- 雲南省の西双版納(シーサンパンナ)傣族自治州だけでBBQ店が2万店もあるというので、食肉需要はすごい。その需要を満たすため、チェンライ県は食肉輸出基地の潜在力が高いと女史は力説していました。雲南省へ生牛が正式に輸入許可されているルートは瑞麗(ルイリ)と班海(パンハイ)の2カ所で、タイにとって、瑞麗は遠いので、班海が有望な輸出ルートとなるだろうとのことです。しかし、雲南省からの牛肉資源探しはミャンマーやラオス、さらにはインドにも及んでいるらしいので、近隣の農業国との競争もあります。

Q. 2015年に開通したミャンマー-ラオス友好橋を利用して雲南省に抜けるルートを模索しているようでした。

- この橋を利用すればシャン州からルアンナムタ県に入り、ムアンシン経由で班海Panghai国境から多少近道で雲南省への陸路が開けます(別添図)。

チェンライ商工会議所としては、ラオス・中国政府に対し、この国境を現在のローカル国境から国際国境へ格上げしてほしいとリクエストを出しているとのことです。ただ、同友好橋では川の土手が妙な格好をしており、ミャンマーとラオスの間で川の上空の国境線が確定できないという領土問題が残っており、第三国人は通れない状況が続いています。

Q.ミャンマー-ラオス友好橋は、後日、現地を視察しました。ミャンマー-ラオス友好橋ルートの利用は可能でしょうか。

- ジェトロ情報によると、この友好橋は長さは691m(2車線)、幅10.9m、建設総額は2,600万ドルで、ラオス政府とミャンマー政府が折半で負担しました。ミャンマー側はタチレイ国境からのミャンマー4号線と、ラオス側はパンハイ国境からのラオス17B号線を結び、景洪~チェンライ間をラオス3号線経由の南北経済回廊よりも70kmほど短い陸路で結びます。しかし、ミャンマーの国道4号線に未舗装区間が多くあること(今回は未実走)とラオスの国道17B号線も舗装場外が劣悪であること(今回実走済み)で、物理的インフラがまだ整っていません。ラオスと中国のパンハイ国境もまだローカル国境で第三国人は通過できません。

2014年にジェトロがパンハイ国境から本友好橋までの100kmを実走した際、乾季にもかかわらず3時間半を要しました。今回は雨期で、それより長く、実質4時間超かかりました。少なくともラオス側の道路整備はなされていないと考えられます。

このルートは2つのローカル国境の国際国境への格上げと、ミャンマー・ラオスともに辺境の道路整備というダブルの課題があります。国際国境でないため交通量が少ないのか、交通量が少ないから道路整備して国際国境へ格上げできないのか、「鶏と卵」問題かもしれません。いずれにしてもこの橋は完成してすでに4年以上経っているのに、このままでは物流ルートとしても観光ルートとしてもあまり役をなしていないと言わざるを得ません。

ラオス側の橋へのゲートで約20分観察している間に見かけたのは、ミャンマー側からオートバイでやってきた若い男女2組と、徒歩やってきた家族1組だけで、車両はまったく見かけませんでした。

 

Q.ミャンマー・シャン州のヘーホー空港が国際空港に格上げされると述べていました。ビジネスチャンスが増えるような様子でした。

- ミャンマーの大手財閥カンボーザ(KBZ)グループが工事を落札したそうです。チェンライ空港と20~30分のフライトでつながれば、ミャンマーとタイの地方都市同士がつながります。ミャンマー側の陸路インフラがまだ貧弱なだけに、空路でのローカルtoローカルの経済統合が先行するかもしれません。

Q.中国の中央政府は、雲南省を含む辺境諸省における少数民族を「開発」の名の下に、管理しようとする動きが出ているようです。

- 女史によれば、少数民族諸グループと合計68のMOUを結び、近隣諸国からの輸入品に対してFTAよりも有利な特別関税を許可しているとのことです。10月1日の国慶節では例えば瑞麗(ルイリ)でお祭りイベントを開き、近隣諸国からも少数民族のゲストを招待し、「ひとつの中国」をアピールしています。女史もそうしたイベントに招待されました。

また、女史はメコン川航行に関して中国との経済外交を担っており、「中老緬泰瀾滄江-湄公河国際航運発展潜力研究発表会」Dissemination Workshop of Research on Development Potential for International Shipping on the Lancang-Mekong River among China, Laos, Myanmar and Thailandというものに参加しました。

Q.「鉄の女」はミャンマーとの経済外交も担ってました。

-GMS 4 Countries 12 Checkpoints - GMS Liaison Office Cooperation on Anti-Transnational Organizational Crime (GLOCATOC)という会議にも参加したそうです。越境難民、人身売買、組織犯罪などの問題を話し合うとともに、中国のウイグル族や北朝鮮問題まで議題に上るそうです。また、メーサイとタチレイの隣同士のTownship Border Committeeに参加し、ミャンマーのカウンターパートと交替で会議を開き、「非伝統的安全保障問題」(麻薬、人身売買ほかの非合法活動)について協議しており、この委員会には国境の両側の陸軍、海軍、警察、入国管理局、税関などが参加しているとのことです。まさに「鉄の女」は八面六臂の活躍です。

(ITIタイ研究会は公益財団法人JKAの補助事業です)