一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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フラッシュ

2003/04/01 No.43_6アラブ系移民を抱える中南米の対米外交(6/6)

内多允
(財)国際貿易投資研究所 客員研究員
名古屋文理大学 教授

<国境対策が南米3か国共通の課題>

 米国はアルゼンチンとブラジル、パラグアイの3か国が接している国境地帯(Tri-BorderArea)がテログループの拠点になっているとして、関係国との連携を提案している。この地域には中南米域外からも人が活発に往来しているだけに、テロ対策も必然的に多国間の協調が求められている。米国がこの地域の動向に警戒する理由は以前から密輸や麻薬・武器取引の拠点になっており、マネーロンダリング(資金洗浄)も行われておりこれに加えて多数のイスラム教徒も居住していることである。9・11事件以降のテロ対策にかこつけて米国等の内政干渉を警戒している関係国も、この国境地帯のテロ対策については協調する姿勢を見せている。これは国境を抱える3か国の治安にも関係するからである。アルゼンチンでは02年11月、チリから入国したイタリアの極左テロ組織「赤い旅団」の幹部の身柄を拘束した。赤い旅団は1978年にアルド・モーロ元首相を誘拐して殺害するなど要人に対するテロ活動を展開した。その後鳴りを潜めたが90年代後半から復活が警戒されている。02年3月にはイタリア中部ボローニャ政府の福祉大臣顧問が2人組に射殺された事件も、赤い旅団の犯行ではないかと疑われている。アルゼンチンで拘束されたイタリア人男性も、ブエノスアイレス警察によれば70年代から80年代にかけてイタリアでテロ活動に関与しており、前記ボローニャでのテロについても容疑がかけられている。国境地帯でテロ活動家との関与が警戒されているのがフォス・ド・イグアス(ブラジル側の都市名。パラグアイ領のシウダ・デル・エステ、アルゼンチン領のプエルト・イグアスと共にこれらの国境地帯で接している都市の間で自由な往来ができる)である。この国境地帯3都市で、規模が最大の都市がブラジルのフォス・ド・イグアス(以下イグアス)である。パラグアイは南米で唯一の台湾承認国であることから、華人の移住者も集中している。同地域の商業には華人に加えてアラブ系商人も進出している。

 米国はかねてよりイグアス地域の警戒強化を、関係国に提案している。02年11月チリで開催された米州34カ国国防相会議でも、米国は同地域の共同防衛を提案している。しかし、南米各国が同意しなかったために米国の提案は実現しなかった。アルゼンチンは前記イスラエル関係の爆破事件の犯人も含めて、国境地帯がテロ活動の拠点になっていると信じている節がうかがえる。アルゼンチン大統領は、米国軍の特殊部隊であるグリーンベレーの駐在を認めた。02年10月からミシオネス県サルタに駐在して、演習を行っている。同県はブラジルのフォス・デ・イグアスの対岸に位置している。駐在を認めた理由はアルゼンチン国境警察の能力増進に資するためであると説明している。アルゼンチン政府はフランス政府と軍事訓練協定を、02年12月に締結した。フランスが植民地として統治していたアルジェリアで蓄積したゲリラ対策のノウハウを得るためである。

 ブラジルはイグアス地域がテロ活動の温床であるという証拠はないという姿勢を、表向きは取っているが実際は注意を払っている。ブラジルの報道(べージャ誌1794号の記事を紹介したニッケイ新聞03年3月21付電子版)によれば、94年の前記ブエノスアイレスでの爆破テロに関して米国CIAは、ブラジル政府にイグアス周辺の捜査を依頼した。ブラジル政府は捜査を数か月続け多くの不審なことが浮上したが、犯人を特定できる確証は得られなかった。米国政府が追跡しているオサマ・ビン・ラディンも95年、アルゼンチン経由でブラジルに入国、イグアスで3日間過ごしたという。この記事のソースであるブラジル国家情報局(Abin)の職員によれば、イグアス国境地帯でイスラム系テロリストの捜査が行われた。ブラジルは米国とは距離を置いた形で、国内の治安対策を講じている。ちなみに03年1月発足したルーラ労働政権には、かつてのゲリラ活動の闘士2名が閣僚に就任している。ジルセウ官房長官はキューバでゲリラの訓練を受けた経験がある。また、ジウマ・ロウセフ鉱山動力相はかつては都市ゲリラ・パルマレスの闘士で、金庫破りの名人であったと伝えている。

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