一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2006/11/08 No.87三角合併を巡る諸課題

濱田和章
(財)国際貿易投資研究所 主任研究員

2006年5月1日に「新会社法」が施行された。関心が高いM&Aに関し、三角合併などの対価の柔軟化の実施は1年先送りされることになった。(対価の柔軟化とは従来は消滅会社の株主への対価が存続会社の株式に限られていたのが、金銭を含む財産一般を使うことも可能になることである。)三角合併が名実ともに実施されるようになると、外国企業による日本企業に対するM&Aは増加することが予想される。敵対的M&Aが仕掛けられる可能性も高くなる。

三角合併を巡っては、以下のような諸課題がある。

ひとつは三角合併で親会社の外国株式を使う場合の決議要件を特別決議にするか特殊決議にするかという課題である。特別決議ならば株主総会に出席した株主(議決権)の三分の二以上が賛成すればよい。特殊決議ならば株主数ベースで過半数かつ、総議決権の三分の二以上の賛成が必要となる。日本の証券取引所に上場されていない株式会社の場合、在日米国商工会議所(ACCJ)は特殊決議にすると、「外国企業の株を使った魅力的で友好的な三角合併は、打診の段階で検討することすら無意味なものになる」ケースがほとんどとなる可能性は高くなると反対の意向を示している(「現金を対価としないM&Aへの一貫した開示・投資家保護規定の適用」に関する意見書—2006年11月まで有効)。日本の経済界では特殊決議に肯定的な姿勢を示している団体もあるが、消極的な考えを示している団体もある。

もうひとつは三角合併について次の3点の課税繰り延べに関する税制改正上の課題がある。(課税の繰り延べとは、通常では資産や株式の移転に伴い簿価と時価との差額の含み益が実現し、そのキャピタルゲインに対し課税されるが、その時点では含み益を認識せず、税金がかからないようにすることである。)

(1)消滅会社の資産・負債が存続会社に移転する際の譲渡損益課税の繰り延べを認めるかどうか(現行は存続会社株式のみ交付される場合に限って繰り延べ)、(2)消滅会社の株主が消滅会社の株式を手放し、外国親会社株式を交付される際の消滅会社株式の譲渡損益課税の繰り延べを認めるかどうか(現行は存続会社株式のみ交付される場合に限って繰り延べ)、(3)消滅会社の株主のうち非居住者について、課税繰り延べを認めると、外国株式を対価とする三角合併後に我が国の課税権が及ばなくなることを認めるかどうか、の3点である。

2007年5月からの三角合併を利用したM&A実施に向けて、今後の税制論議が重要な役割を演じることになる。

M&A取引には光と影の両面があるとは言え、今後の日本経済、企業の競争力強化にとってなくてはならない経営戦略上のツールである。三角合併が活用されるためにルール・手続き、税制などがM&A取引を阻害することのないよう構築されることが重要である。

三角合併がM&Aに利用されることについて、財界は三角合併などの対価の柔軟化の実現を要望(日本経団連意見書:会社法改正への提言2003年10月21日)しつつ、憂慮の念も表明している。日本経団連の「企業買収に対する合理的な防衛策の整備に関する意見(2004年11月16日)によれば、「近年、株式持合いの解消や株式市場の低迷による時価総額の低下等もあり、合理的な防衛策がない現状の下で、企業価値を毀損する恐れのある買収への懸念が高まっている。こうした中、会社法制の現代化において、合併等の対価を柔軟化し、親会社株式等を対価とできる方向で検討が行われている。例えば、全く企業風土の異なる会社が、子会社を買収対象企業と合併させ、自社の株式を対価として、現金を負担することなく、100%子会社化することが可能となる。これに伴い、企業の長期的利益にコミットしていない買収者が、自らの短期的利益の追求を図ることにより、企業価値が損なわれたり、株主や従業員、地域社会等に大きな不利益を及ぼすリスクが増すことは否定できない。」としている。

一方で、ACCJは前出意見書で、「過去数年間にわたってACCJや日本経団連などいくつかの団体は日本政府に対し、最新の合併方式を導入し、クロスボーダーの株式交換取引及びこれを応用した取引(三角合併など)に対し柔軟な繰延税制措置を認めるよう求めてきた。かかる方法を導入することにより、日本企業の経営者や既存の株主は取引の仕組みやカウンターパーティーを広範囲の選択肢から選べるようになり、対日直接投資を含めて投資の流れが促進される。内閣で定められたこれらの国家政策目標を達成するために、2005年6月に国会が可決した新会社法には、国内と海外両方の投資家による友好的三角合併の実施を認めることで合併対価を柔軟化する、という条項が盛り込まれている。これらの条項は新会社法が施行された1年後に実施されることになっている。」と総じて評価している。

これら日本経団連およびACCJは友好的M&Aを念頭において三角合併の活用の有効性を論じている。ところが、ライブドアのニッポン放送への敵対的買収が試みられた頃から、三角合併の導入によって日本企業が外資に買い占められてしまうと言った、外資に対する警戒が一段と強調されるようになった。

M&Aとそれに付随するであろう追加投資などは、新規に法人を設立するグリーンフィールド投資同様に、日本経済の活性化にプラスとなる。UNCTADによれば、近年クロスボーダーM&Aが急増し、世界全体の対外直接投資の90%を超えている。今後、三角合併が日本経済、企業の競争力強化のために有効的に活用されることが期待される。

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