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ドイツのロシア向け輸出が近年大幅な伸びを示している。
EUとロシアの関係はここ数年、ロシアによる安定的なエネルギー供給、ロシアによるポーランドやバルト諸国に対する圧力問題、米国による東欧へのミサイル防衛(MD)システム配備問題、ロシアの人権問題などでぎくしゃくした関係が続いている。エネルギー安定供給と貿易拡大などを盛り込んだEUとロシアの間の新しい協力協定の年内締結をめざして今年5月に開催されたEU・ロシア首脳会議でも交渉開始に向けた糸口はつかめなかった。首脳会議ではEUの議長国であるドイツのメルケル首相とプーチンロシア大統領との間で激しい応酬も行われたとされるが、二国間、特にドイツのロシア向け輸出を見る限り、輸出の増大は極めて顕著で、いわば“政冷経熱”の観を呈している。
確かに先の首脳会議では、両国の首脳の間で激しいやりとりが行われたが、ロシアでは、メルケル首相の発言はあくまでEUの代表者としての主張であり、ドイツの首相としての発言ではないと受け止められている(ドイツ経済紙「ハンデルスブラット」、2007年6月19日付)ことも“政冷”が“経冷”に結びつかなかった要因として挙げられるかもしれない。しかし、何よりも最近のドイツのロシア向け輸出ブームを引き起こした直接的な要因となっているのは、ロシアが高度経済成長を続ける中で、ロシアの産業や消費者がドイツの商品を必要としたということであろう。
2006年におけるドイツの輸出総額は前年比14.8%増の1兆1,130億ドルであった。ドイツの主要輸出国は、輸出額の多い順に見ると、隣国のフランスを筆頭に2位が米国、3位が英国と続いている。以下10位までがイタリア、オランダなどの近隣のEU加盟国が続いている。ロシアはドイツの輸出相手国の中では11位の中国に次いで12位につけており、06年の輸出額は289億6,300万ユーロであった。そして注目されるのはロシア向けの輸出の伸びが極めて高いことである。06年の対ロシア貿易は前年比37.8%増と、ポーランド向け輸出(前年比31.0%増)、中国向け輸出(同30.0%増)を上回る高い伸びを記録したのである。ロシア向け輸出の高い伸びは07年に入っても続いており、07年1〜3月の輸出は前年同期比44.8%増を記録、ロシア向け輸出はブームの様相を呈している。
もっとも、これらの輸出の大幅な伸びはドル建て表示の伸びであり、最近のユーロの対ドル為替レートの高騰(ユーロの対ドルレートは、06年初の1ユーロ=1.1875ドルから07年初には同1.3084ドルに上昇し、07年6月27日現在では同1.3438ユーロ)により、ユーロ建てで見た場合には、06年の対ロシア輸出は前年比34.9%増、07年1〜3月の伸び率は前年同期比29.4%増とドル建ての場合と比べていく分低くなっている。
下表はドイツの対ロシア輸出を主要品目別(2006年の輸出で上位20品目)に見たものである。
表から明らかなように、ドイツのロシア向け輸出の中で最大の品目である乗用車が06年に前年比90.5%増と2倍近い伸びを示しており、07年1〜3月も高い伸びを維持していることが注目される。最近ロシアでは、新車の購買層が、所得が相対的に高い大都市圏や天然資源の産地にとどまらず全国的に広がっており、ドイツのメルセデスベンツやBMWなどの高級ブランド車に対する需要も高所得者を中心に拡大していることが輸出急増をもたらした背景になっている。ちなみに、消費の拡大は自動車だけにとどまらず、現地で耐久消費財の小売りチェーンを展開しているドイツのObiやMedia Marktも順調に売り上げを伸ばしているという。
自動車関連では、自動車部品・付属品の輸出も高い伸びを示しているが、これは、AvtoVAZ(アフトワズ)やGAZ(ガズ)といったロシアの国内自動車メーカーに対する部品供給に加え、07年後半にロシアで生産を開始する予定のVW(フォルクスワーゲン)など進出企業への供給増を反映したものとみられる。
乗用車および自動車関連以外の品目では、「産業用機械類」「飲食料品製造機械」「加熱処理機械」「ゴム・プラスチック用加工機械」など機械設備類の輸出が押しなべて極めて好調であった。これは、近年の経済の活況に伴うロシア企業の設備投資が極めて活発であったことを反映したものであろう。前述のハンデルスブラット紙はこれに関連して、「ロシアでは企業の設備稼働率は75%という高い比率であり、ロシア企業の4社に3社は減価償却済みの古い機械設備の更新投資を行っている」と報じている。また、ロシアの大企業は設備投資などへの資金需要に対応するためにEUなど西側諸国の株式市場に上場したり、社債を発行するといったケースも増えているという。
ロシアでは石油、天然ガス等の資源輸出、個人消費の拡大、企業の設備投資の増大などを軸とした高い経済成長が少なくとも2010年ごろまで続くという見方が支配的である。ドイツ企業がこれまでのユーロ高の状況下でもロシア向け輸出を伸ばしてきたという経緯から見て、現在のユーロ高が今後極端に進むといった事態が起こらない限り、また、ロシアとEUの間の二国(地域)間関係がこれ以上悪化しない限り、ドイツの対ロシア輸出ブームはまだ当面続きそうである。
表 ドイツの対ロシア輸出(上位20品目) (単位;100万ドル、%)
品目 |
2006年 |
06年の対前年比伸び率 |
2007年1〜3月 |
07年1〜3月の対前年同期比伸び率 |
対ロシア輸出合計 |
28,963.2 |
37.3 |
7,744.4 |
44.8 |
(主要品目別) |
|
|
|
|
乗用車(8703) |
1,948.4 |
90.5 |
670.5 |
67.2 |
ラジオ・テレビ用送信機器(8525) |
1,181.4 |
-3.3 |
27.9 |
-85.4 |
医薬品(3004) |
838.0 |
41.8 |
161.9 |
-5.0 |
自動データ処理機械(8471) |
795.7 |
36.1 |
166.6 |
3.0 |
自動車部品・付属品(8708) |
633.0 |
66.6 |
176.6 |
45.9 |
産業用機械類(8479) |
438.9 |
16.3 |
103.0 |
31.0 |
皿洗機・洗浄用・乾燥用機械(8422) |
424.2 |
40.9 |
149.6 |
53.2 |
電話機(携帯電話を含む)(8517) |
348.9 |
-17.6 |
335.3 |
284.2 |
医療用・獣医用機器(9018) |
343.4 |
58.2 |
67.2 |
-3.2 |
飲食料品調製機械(8438) |
342.3 |
60.1 |
95.5 |
69.3 |
貨物自動車(8704) |
321.6 |
72.4 |
94.3 |
62.4 |
事務用機器の部品(8473) |
311.9 |
6.4 |
27.6 |
-41.1 |
遠心分離機、ろ過機(8421) |
308.6 |
16.4 |
68.5 |
-13.4 |
液体ポンプ、液体エレベーター(8413) |
300.0 |
42.4 |
70.4 |
23.5 |
その他の航空機(8802) |
295.5 |
109.6 |
− |
− |
コック、弁等(8481) |
280.9 |
47.8 |
78.0 |
71.9 |
加熱等処理機械(8419) |
277.4 |
39.5 |
75.8 |
13.3 |
ゴム・プラスチック用加工機械(8477) |
275.0 |
23.4 |
100.9 |
136.5 |
トラクター(8701) |
255.6 |
71.3 |
95.5 |
92.8 |
収穫機・脱穀機(8433) |
254.7 |
39.5 |
44.9 |
36.9 |
(注)品目の後ろのカッコ内の数字はHS分類番号。
(出所)ドイツ貿易統計より(財)国際貿易投資研究所作成
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